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Original Novel 遊真 Presents



寂光堂


月輪の法則

19 フーダニット



「………つまり、夜月さんが言いたいのは……」
額に手を当て、憔悴した顔を隠すようにして、前川美紀が僕の話しをまとめた。
「九人の中に一人、人殺しがいて。そいつを縛り上げれば、この悪夢から生還する事ができると……そう言いたいわけだ。それこ―――」
「ふざけるなっ!」
前川さんの話しが終わるのを待たず、瀬能が立ち上がった。
先程から、ちらちらとこちらを見ては、噛み付くような視線を僕に送っていた。
それが我慢の限界に達したのだろう…。
大股で二歩、僕に近づく。
「この中に犯人がいるというならっ。そ、それこそお前じゃないかっ!!」
「……なぜですか?」
「わ、解りきった事だっ!この九人の中で素生の解らない者は、お前だけなんだぞっ。そんな怪しい話しを鵜呑みにする奴がどこにいるっ!!」
さらに一歩踏み出す。
僕は……。
「止まってくださいっ!!」
一喝した。
空気がびりびりと緊張を伴って、瀬能にぶつかった。
彼の進軍が止まる。
「元の位置に戻ってください!あなたが、僕を疑いたければ疑えば良い。だけどそれがあなただけの主張であるのなら、僕は一向に気にしない。ここにいる八人が全員一致して僕を疑うならお縄になってやる」
「き、貴様っ!」
瀬能の怒れる瞳を凍り付かせるように、冷めた表情のまま僕は宣言する。
「戻れと言っているっ!あなたが僕を疑うように、僕もまたあなたを疑っているんだ。気安く僕の間合いに入ってくるのは止してもらえないか!!」
三度目、これ以上、聞き分けがないのなら実力行使に出るっ。
彼が敵でない証拠など、どこにもないのだ。
殺しの間合いへ無防備に瀬能を入れる事は、すなわち己の危険に繋がる。
僕は本気だ。
「戻れっ!!」
僕の決意の程が伝わったのか、気圧されるようにして、瀬能が元座っていた席に後ずさりながら戻った。
どっと冷たい嫌な汗が背筋を伝う。
瀬能にとっては、ただ激情のまま僕に近寄っただけの事かもしれないが。
僕にとって、圧倒的な死に対するプレッシャー、それ以外の何ものでもない状況だったのだ。
間髪を入れず僕は皆に問いただし、一同を見回した。
「みなさんに聞きます、僕を犯人であると疑っていますか?」
「……正直言って僕はそんな事解らない、だけどあなたがいなければ、この状況は打開できないんだろ?」
相原裕也は僕の目を見据えながらそう答えた。
ついで、僕は視線を隣にずらす。
「…………感情的に疑ってしまうのは…仕方がない、……夜月さんが犯人でなければ私達の知っている誰かが犯人となってしまうのだからな…、すまない」
前川美紀はそう言って黙り込む。
「私は…信じます」
翔子さんはそれだけを言った。
「お、俺は…どちらとも言えない。別に……特別…疑っているわけじゃ……ない」
僕と目が合うと滝沢は視線を逸らし、声を震わせて言った。
自分の身の安全を考えるだけで手一杯という感じだ。
犯人などどうでもいい、早くここから出たい……それが本音だろう…。
「僕は、あなたを疑うよ。オカルトなんかに染まった奴が殺戮に餓えるなんて良くある話しじゃないか。そういう人種を僕は信じていないんでね」
精一杯虚勢を張って、間島は僕を否定した。
井口さん、佐原さんの二人は、促しても、ただただ黙っている。
「九人中、三人が僕を怪しいと思っているわけですか。なら、僕は拘束されるつもりはありません」
我ながら、ふてぶてしくそう宣言すると、心の中で僕は安堵の息を吐いた。
もし最初から自分がイニシアチィブを握らなければもっと散々な……例えば翔子さんだけが味方、という状況になっていたかもしれない……。
瀬能の言う通り、僕が一番怪しい人間であることは確かなのだから…。
ただ、自分が犯人でないと言う事は、断言できる。
僕は瞬きを忘れた瞳を休ませるため瞼を閉じ。
それからゆっくりと八人の視線が注目するなか立ち上がった。
瞼を開く…。
「いつまでも、こうやって黙っていた所で埒は開かない。犯人は誰か……検証して行こう…。ただし、慎重に慎重を重ねて……」
「まるで狩りだ……」
相原がうめく。
狩り……か、確かにそうだ、これは狩りといえるかもしれない。
狩猟場はこの柔剣道場。
そうして……狩られている獲物は……犯人ではなく。
僕達だ。
僕は強い西日に目を細めると、窓の外を眺めた。
十五分が経過していた。
残りは僅か四十五分。
時もまた僕達を狩り立てている……。



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