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Original Novel Yuki Presents



歴史の果てに


第6章

覚醒



 
「おっさん、あんた…。」
俺はかける言葉が見つからなかった
この人も、自分の正義のために戦っている
たとえ、それが正しいことではないとしても
「ふふ…私にも、お前の考えていることが分かるよ…。」
「…そっか。」
ああ、わかるとも
お前の言いたいこともな…
私が生き延びた時、こうなる結果ができていたのかもしれない
これが、私の役目だったのかもしれない
お前に、神と人との間になにがあったのかを、伝えることが…
「ありがとう。最後に二人を思いださせてくれて…。」
それきり、椎田が心を聞かせてくれることはなかった
「よし、UDよその男を降ろしなさい。」
白衣の男の言葉に反応し、椎田を降ろす
そして、その男のほうを向く
「ふふふ、完璧に命令どうりに動いていますね。」
「あんた…おっさんの仲間じゃなかったのか…。」
一瞬見た記憶の断片が、そう告げる
こいつは、敵だ!と
「仲間ではなく、協力者、と言ってほしいですね。」
「協力者…?」
そう、考え方は違いますが、同じ目的に向う、協力者なのですよ…
「この世界が、なぜだめになったのか、わかりますか!?」
…だめになった?
それは、神の暴挙を言うのか?
それとも、このおっさんの行動を言っているのか?
「ただ敷かれたレールを歩くだけの人類…。これを、生命と呼べますか!?」
自分の意思を持った、生き物と呼べるのですか!?
私は思いませんよ
「そう、つまりは神と、あなた達がいなければこんなことにはならなかった。」
「でもよ、それじゃあ人類だって誕生しなかったんじゃねえか…?」
「それならそれでいいんですよ。それが、運命というものでしょう?」
そこから、自分の足で歩く生命が誕生すれば
それこそが、本当の人類と呼べるのではないのですか!?
「作られたという時点ですでに、我々は歩かされているんですよ。」
「だったら…あんたも同じじゃないのか!?」
おまえだって、そのレールを歩いて、ここまで来たんじゃないのか?
「そう、その通りなのです。」
私達も、ここにいてはいけないのです
「私は、別にこの星のことなどほしいとは思っていません。」
全てを、無に返すのです
いくらあなたと、神がいなくなろうとも
この事実を知っている者がいては、すべての繰り返しですから
「そのためにも、まずそこの三人には死んでもらいましょう。」
そう言うと、白衣の男は俺に命令する
「三人の天使を、殺しなさい。」
その言葉に反応し、意思と反して体が動く
やめろ!
俺の抵抗は体には届かない
少しずつ、青葉達に近づいていく
「あの時、あなたに埋め込んだ器は、この時のためのコントローラだったんですよ。」
…あの時
あの時とは、いつのことだ
俺はあんたとは、初めていま会ったばかりのはず
俺はそんな記憶は持っていない
"オモイダセ!!"
頭に何かが響く
"オレハモウ、アスラシャムガ、アオバガシヌトコロヲ、ミタクナインダ!!"
青葉という言葉に反応する
しかし、俺の意思ではもう体は止まらないのか…?
青葉を掴みあげ、そのまま静止する
次の命令を待っているのだ
「青葉…!起きろ!!」
必死に青葉を起こそうとする
「さあ、とどめを刺しなさい。」
白衣の男が命令をするが
「青葉…起きてくれ…。」
俺の最後の抵抗
俺の精神力で、どうなるかは分からない
しかし、思いがけない抵抗に体は動けなくなる
あいつの命令にも、反応できないぐらいに
「ばかな!人間の意思で、天使の体を抑制するだと!?」
俺は、青葉が死ぬところなんて
"モウミタクナイ…!!"
その時、青葉が気がついた
「…梓零、くん…。」
「気がついたか、青葉!!」
よし、もうちょっとだ、そのまま止まってろよ、俺の体!
「青葉、逃げてくれ…。」
「で、でも、そんなこと…。」
状況を確認しながら青葉が答える
「俺も、もう長いことこの体を止めることは無理だ…。」
もう限界だった
ちょっとでも気を抜けば、俺の手は青葉を貫くだろう
「でも、梓零くんの手…傷つけたくないよ…。」
「切り落としてもかまわない、早く、逃げてくれ。」
しっかりと青葉の首を握っているため、そうでもしない限り逃げることは無理だろう
でも、俺が青葉を傷つけるよりは…
「さあ、やれ!!青葉!」
「無理だよ!!一緒に、逃げる方法探そうよ!」
私だって、梓零くんを傷つけるなんて、したくないよ
それに、この手の力…
私には振りほどけないよ…
それに、私はここで眠る運命だから
結局、またこの歴史の繰り返し
私は、あなたに…
でもね、少しでも一緒にいられるから怖くはないの
「また、言えなかったね…。」
「頼む…、青葉!」
あなたに、伝えたい言葉…
いつも、言えないね
「私、あなたのこと…」
その時、歴史が動く
ここで終わる私の歴史
少しだけ、変わったみたい
突然私の体が梓零くんから離れる
誰かに、抱きかかえられている…?
「誰!?」
「久しぶりね、アスラシャム…。」
「キュスティ…さん!?」
なんで、ここに…
捕まってるんじゃなかったの?
キュスティさんは、私を白衣の男の人のそばにつれていった
「博士。手間取っているようですが…問題でも?」
「ええ…。正直、人間の力を侮っていましたが…。」
これ以上は、彼の意思でもおそらく抑制するのは無理でしょう
まあ、折角ですし、おもしろくしてみましょうか…
「キュスティさん。」
「なんですか?」
「UDの目の前でその子を殺してあげなさい。」
ふふふ…絶望に身を委ね、消滅しなさい…
邪魔な、人間の意思よ…
「いいのですか?」
「せっかく彼の手の中で死なせてあげようとしたのですが…彼が嫌がっているので…。」
身動きできないまま、二人の会話を聞く
また、俺は見ていることしかできないのか…
この歴史を変えるために、"オレ"はここまで来たんじゃないのか!?
それなのに…それなのに!
一体どれだけ青葉を殺せばいいんだ…
いっそのこと…オレも一緒に青葉と、殺してくれ
「博士、本当にいいんですか?」
「かまわん、やりたまえ…。」
やめろ、やめろ、やめろ!!
「さあ、アスラシャム。なにか彼に言い残すことは?」
「梓零くん…ごめんね。」
…青葉?
「私達が、あなたと関わらなければ、こんなことにはならなかったのに…。」
何を言っているんだ
俺はお前に会えて嬉しかった
「もちろん、私も嬉しかったよ。…けど。」
だったら…いいじゃないか
なにを…謝る必要があるんだ
「私があなたに会いたいと思わなければ、あなたは幸せでいられたのに…」
違う
そんなことはない!
お前に会わない人生が、幸せなわけないだろう!?
人間として、平凡に生きていけることを、死んでいくことを幸せだとは思わない
どんなに短くても、一瞬でも、幸せな時間をすごす
それこそが、本当の幸せじゃないのか!?
「俺は、お前と出逢えて、今の時間が一番幸せだった!」
「私も…そう思うよ…それに、私、あなたのこと…」
好きだから
それは言葉にならない
そして、青葉の時間が凍りつく
笑顔のまま、そこだけ周りから切り離されたように

(アスラシャム…また、この歴史を繰り返すの…?)
この時、すでにミスティリウスは意識を取り戻していた
そして、反撃のチャンスをうかがっていたのだが…
(また…失敗なの…!?)
前も、その前も!…何回、私はあなた達を殺さなきゃならないの!?
もう、嫌になる
やっぱり、神には逆らえないの…?
もうすぐ、緋禮が自我を失って、暴走しておしまいね…
キュスティが現れて何か変わったと思ったけど、結局は少し死ぬ時間が延びただけ
結局は…死ぬ運命からは逃れられない…
また、何億年と眠るの…?
どうせなら、そのまま眠りつづけさせて…!
そのとき、場の空気が変わる
(…きた!)

「青葉!!!」
崩れ落ちる青葉
笑みを浮かべたまま、その場に、ゆっくりと…
俺の中でなにかが切れた
青葉の、アスラシャムの崩れ落ちる様の、嫌というほど鮮明な、大量の映像が
俺の頭の中に浮かんでは刻んでいく
俺という人間のたくさんの記憶と
オレという天使の記憶と力
膨大な量にのぼるそれは、俺の人間という器には大きすぎる!
…大きい?そんなことは関係ない
この力があれば、青葉を助けられる
それなら俺は、全部受け入れてやる!!
「う、おおおおおおおおお!!!」
ふふふ、オーバーフローしたようですねえ…
予想通りですね、全てが…
「さあ、UDよ。神を…殺しなさい!!」
確かに、こんなものを手に入れたら、椎田でなくても世界征服したくなるのは、当然
だから、こういうものはあってはならないのですよ
だけど、この力は神を討つべきもの
さあ…神と、剣を交えるのです
そして、このちっぽけな歴史など…消去するのです!
「くう…、こ、刻露…!!」
「な、なに?」
しゃべった…?
まだ、人間の意思があるのか!?
ばかな…どうやって!
「おっさんの、心を弄んだ罪…。」
じわじわと歩み寄る
「ひい!く、くるな!!」
「青葉を、殺した罪…。」
ば、ばかな!?全てが、予定通りだったはず…
い、今私が死ぬわけには…
全生命を、開放できなくなってしまう
しかたがありません、今回はあきらめましょうか…
「キュスティさん!あれを…。」
「…殺す、つもりですか?」
今は、手段を選んでいる時ではありませんから…
そう言うと、刻露は一つのカプセルをとりだした
それをキュスティが飲みこむ
「恨まないでね、アスト…。」
直後、キュスティの背中の翼が光だし、6枚に増える
(…キュスティ?)
あれは…なにかしら
キュスティの力が格段にパワーアップしてる
あれなら…アストも危ないわ
止めるべき…?
その時、ワドラが目を覚ます
(ワドラ!大丈夫?)
(なんとか…。って、青葉はん、今回もあかんかったんか…?)
気配が…消えてもうとる…
もう、五回目やのに…
やっぱり、神に逆らうなんて、無理やったんか?
(そうでもないみたいよ…。)
(どういうこと?ミスティはん…。)
今まで、あそこで終わった
だけど、緋禮が自我を失っていない
それに、キュスティが出てくるなんて…初めてだわ
少し、ずれてるみたいね
このずれが、よい方向に向いているならいいんだけど…
(…でも、アスラシャムはん、死んでもうたで?)
気配が感じられん…
力の存在を
生命の活動する気配を
(どうする?ミスティはん。)
(そうね、少し様子を見ましょう。)
もし、暴走するようなことになれば
また、殺さなければならないから
それだけは、私の役目だから
何度でも、あなたを討つ…
「行くわよ、アスト…。」
その時キュスティの姿が消える
一瞬でアストとの差をつめ、剣を薙ぎ払う!!
「よくも…青葉を!!」
そして俺は翼を広げる
六枚の翼が、日の光に反射して、きらきらと光る
光を剣の形に収縮する
そして、キュスティの剣を受け止め、そのまま弾き返す
「!?」
キュスティが慌てて間合いを取る
どうやら俺の行動が予想外だったらしい
人間の俺が、天使と互角で、驚いたのか?
今の俺には力がある
…青葉の敵はおれが討つ!
「うお、おおおおお!!」
ガキン!
すさまじい勢いで剣がぶつかり合う
「きゃあ!!」
その衝撃でキュスティが後ろに弾き飛ばされる
その隙を俺は見逃さない
ブシャァ!
キュスティの片腕が飛ぶ
返す刃でもう一本!!
「うあああ!!」
キュスティが悲鳴をあげる
そうだ!もっと苦しめ!!
青葉の苦しみは、こんなものでは…!
「どうだ、痛いか!苦しいか!!」
ドシャッ!
グシャッ!
ズシャァァ!!
斬る部分がなくなるまで、俺は剣を振りつづけた
青葉の痛みは、こんなものではないはずだ
もっと、もっとだ…
もっと、苦しくもがく姿を見セロ!!!
「モット…モットダ…。」
オレの怒りの記憶が、蘇ってくる
それが、俺の意思と入れ替わり、体を支配していく
俺も、今はこれに身を任せよう
そうすれば、青葉の敵が取れる
このまま、意識の渦に身を置いてしまおう
そして、次の標的を決める
「刻露…。次ハオ前ノバンダゾ…?」
ゆっくりと歩み寄って行く
「や、やめろ!くるなあ!!」
刻露が逃げようとする
「ソウソウ、狩リハ楽シマナイト。」
ビュッ!!
クシャッ!
一瞬で刻露の前に移動する
そして、剣を薙ぐ
刻露の顔が自分の居場所を探すように地面に落ちる
「モロイナァ、人間ハ…。」
(なあ、なんかおかしくないか?ミスティはん。)
(そうね、これは…。)
フォールダウン…!
まさか、堕天化するなんて…!
最悪の、歴史ね…
こんな風にずれるなんて
後悔しても仕方がないわ
一刻も早く、アストを止めないと…
(どうする?)
(また、流れを戻しましょう…。それしか、方法はないわ。)
結局、この結果からは…
あなたを殺すという結果からは逃げられないのね…
…あなたは、今何を思ってるの?
いつも、この瞬間、何を考えているの?
仲間に裏切られて死んでいく…
私は、もう嫌よ…!
でも、これも運命…
あなたが望んだ歴史…
私は、ただ、あなたの考えどうりに、あなたを殺す…
そして、一気に力を開放する
勝負は一瞬
いくわよ、七支刀!
「ワドラ!六階層型結界展開!」
「了解!!」
ワドラが結界を開く
天使の魂が消滅する時
行き場を失った力が暴走する
それは、天使の力と比例して大きくなる
つまり、アストほどの力が暴走すれば…
この地球など、簡単に壊れてしまうだろう
そうならないように、結界を施す
気休め程度の威力ではあるが、重ねればそれなりの効果が期待できる
「オ前達…邪魔スルノカ!」
「…ごめんなさい。」
…あなたを…殺さないと…
剣を持つ手に力が入る
「いやあああああ!!!」
持てる力の限り、全速力でアストにつめよる
「遅イナ!!」
アストの光剣、シュトラデスが、空間ごとその場を切り裂く
シュバッ…
しかし、アストの剣は手応えを掴めない
「ナニ…?」
ばかな、ミスティがオレより…早い!?
そう思った時
ドシュッ!!
ミスティの剣が、すでに俺を貫いていた
「あなたは、怒りにまかせて剣を振っているだけよ。それでは、私には追いつけない。」
最後まで気丈さを保つ私
しかし、その目には、涙
頬を伝う涙
私は、悲しい
こうやって、いつまで愛する人を殺さなければならないの?
もう終わりでいいじゃない
おね、がいだよ…
「サスガ、風ノ大天使…。」
オレの怒りの意思が俺から消える
そして、辺りの惨劇を冷静さを取り戻した目で見る
これがオレのしたかったことなのか
これを止めるためにオレは神を裏切ったのではなかったのか
オレの意識が完全に消えてしまった今
確かめる術はない
でも、オレが最後に残した記憶
"アスラシャムを、助けたい…"
俺だって青葉を助けたい
でも、どうすれば…?
それに、七支刀に刻まれた七つの言霊が発動し、体と魂を隔離しようとする
その時ふと、昔のことがよみがえってくる
「緋禮梓零」として、転生したこと
その時の、島でのできごと
青葉が、繰り返し死んで行くこと
ミスティに殺されるのが、これで五回目だということ
天使としての、力というものがどういうものかと
全てを終えた今に、全てを悟るのも、おかしな話しだ
もうすぐ七つの言霊が発動を完了するだろう
そうすれば、またこの繰り返しなのか…

"ねえ、アスト、遊びにいこ!"
"私…梓零くんのこと…ずっと…"

アスラシャムと、青葉の言葉が混ざる
永遠に果たされることのない約束
永遠に結ばれることのない絆
オレの記憶が失われることで、またアスラシャムを忘れてしまう
俺が死ぬことで、また青葉を傷つける

前世の記憶が俺に告げる
"もう誰も悲しまない歴史を…"
"お前になら、託すことができる"
そうだ
俺には、「時読み」の力がある
これを使えば…
しかし、どんな歴史を作る?
ゆっくり考えられるほどの時間はない
俺も、そのうち消えてしまうかもしれない
そうすれば、またみんな、この悲しい歴史を繰り返す
…ならば、こう願おう
もう、俺達がここで、死ぬことのないように
もう、青葉に苦痛は与えない
これからは、俺が守ってやる
そして、最後には二人に幸せな記憶を…
それだけで、いい…
「時読み」の力よ!
失ってもかまわない
最初で最後の、俺の願いだ
誰にも、邪魔されることのない
誰にも干渉することのできない
歴史を、大地に刻みこめッ!!
その瞬間
辺りが光に包まれる
「なに!?アスト、なにをした!?」
まさか、最後に「時読み」を…?
「ミスティはん、どうしたんや!?」
これは、時空震…
「まさか、時読み…!?」
「ええ、そのようね…えいっ!」
七支刀を引き抜く
「でも、ここは空間内や。それも、二人で作った、強力なやつやで!?」
その中まで、歴史を変えるなんて
神でも無理な話しや!
「どうするん?ミスティはん…。」
「そうね、私達も、つき合いましょうか…。」
どういう歴史を作ったのかはわからないけど
もうこれ以上あなたを殺す歴史は嫌よ
だったら、このままここで死ぬのもいいかもね
「ふう…やっぱり、ついてく人の選択誤ってんなあ、うちら…。」
「あの人の性格知ってるでしょう?最初から、一連託生って覚悟してるわ。」
二人して、ため息ついて、笑いあって
アスラシャムが安らかな寝顔を浮かべて
キュスティが諦めた表情で笑って
アストを中心に、みんなで笑いあう
…懐かしい
あのころに、戻りたいよ…
そして、みんなで…笑おうよ?

辺りが、世界が、光に包まれる
母が子を抱くように、やさしく
しかし、どこかに憂いを含んで
歴史が…変わる




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