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Original Novel Yuki Presents



歴史の果てに


第7章

各々の思惑



俺は夢を見ていた
幾度となく信じあう二人
幾度となく命を変えて出逢う二人
幾度となくすれ違う二人
やがて二人は共に歩み
やがて共に笑い
やがて共に生き
最後には幸せな時をすごす
という悲しい夢を

…どのぐらい眠っているのか
そもそも、俺は眠っているのだろうか
それすらもわからない
だけど、起きなければいけない気がする
状況も飲みこめないのに、それだけははっきりと分かる
起きなければ
書き換えた歴史を探すために
それを見届けるために
さあ、目を覚まそう
起きるんだ
そして
歴史を大地に刻みこめ…


「…ふうん、失敗したのね。」
その頃、天界のデストリアスに報告が届いていた
最初から期待してなかったし…しかたないわ
その時
デストは地球からの力の揺れを感じた
「…これは、時空震!?」
ばかな…天界まで、届くなんて
それほどに、歴史が動いたというの!?
「確かめる必要があるわね…。」
そして、監視用のオーブから映像を取りだす
そこにはアストラディウスが力を開放している様子が写っている
「そう、目覚めたのね。」
意外と早かったわ…
あのとき、人間に技術を与えたのは正解だったようね
さて、どこまで変わったのか知らないけど
「狩りを、楽しみましょうか。」
うふふ…
この時を、どれほど待ったことかしら
「あとは、アストに対抗する力ね…。」
そうつぶやくとデストリウスは部屋を出て、ティストーラウを探す
「ねえ、ティス。ちょっと、いいかしら?」
「ああ、いいけどよ…さっきの時空震って、なんだ?」
そうだったわね、あなたはアストのことを知らないんだったわね
もっとも世の中には知らなくていいことのほうが多いんだけど
「それについて、ちょっとね。場所変えましょ。」
そして、部屋に連れて行く
「んで、話しってなんだ?」
私だけの力じゃ、アストには勝てないのよ
だから…もらうわね、あなたの力を
「その前に、いいことしない?」
ティスをじっ、と睨む
テンプテーション…
異性を魅了する、淫魔貴族の技
悪魔の混血である私には…簡単なものね
「ああ…そうだな…。」
うつろな目で答えるティス
ふふ、かかったわね
「それじゃあ遠慮なくいただくわね…。」
そう言って口を重ねる
そして、ティスの天使としての力を奪う
一滴も残さずに
「ふう…。」
全ての力を奪い終わる頃にはティスは絶命していた
「あら、ごめんなさい。吸い過ぎちゃったわね…。」
と、そこへ
ガチャ
「ねえ、デスト〜。ティス知らない〜?」
セルディが入ってくる
(あら、予想外…。)
そして干からびたティスの亡骸を見る
「…え?え?」
何が起こったのかわからない様子で混乱するセルディ
見られたからには…しょうがない
かわいそうだけど頂いちゃおうかしらね
証拠隠滅にもなるし、力も手に入るし、一石二鳥ね
そうして、セルディを睨む
私にしかできない、同性へのテンプテーション
天使と悪魔の血
混血したおかげで、パワーアップした魅了
初めて、混血だったことに感謝するわ
「さあ、おいで…。」
「…はい、ご主人様…。」
ドサッ
「うふふ、ごちそうさま。」
ごめんなさい、ディベリウス…
せっかく増やした四大天使だったのに
「二人、減っちゃったわね。」
おかげさまで、今の私はあなたをも超えてそうだけど
それじゃ、降りましょ
地上へ…
「楽しませてね、アスト…。」
八枚もの翼を広げる
月光に輝くその翼は
淡く揺らめいて写った


「いたたた…。」
なんや知らんが全身が痛いで…
ま、痛いちゅうことはまだ死んどらんてことやし
「とりあえず、どうなっとるか把握せんと…。」
辺りを見まわすワドラ
そこは椎田達に破壊された町が、人が
全て、元通りになっていた
「こりゃすごい。空間ごと歴史を書き換えとる…。」
しばらくあっけにとられていると
「ったく…無茶するな、あいつは…。」
「ミスティはん。無事やったんやな。」
うちらが生きてるのは奇跡に近いで
あれだけのエネルギーを開放されたんや
地球二、三個ふっとばせる威力やで
それでも生きとるちゅうことは
梓零はんが、力をコントロールしたんか?
それも、うちらや人間達には作用せんように
さすがにこれじゃあ、本体は無事には済まんで…?
「ねえ、アストとアスラシャムは?」
「いや…まだ見てへんけど、この辺におるんちゃうかな?」
「手分けして探しましょう。私はこっちを探すわ。」
「ほなうちはこっちやな。」
二人でそれぞれ反応を探す
天使が発する独特の物質を
さきほど椎田が言っていた「ap反応」というものである
それについてミスティは考えていた
なぜ、あれを人間たちが作れたの…?
いくらキュスティが教えたとしても、あれには冥界の植物が必要なはず
私達天使や人間が冥界にいけないのはわかってるし
冥界の瘴気には…さすがにね
「ということは…」
まさか、冥界が関与しているのかしら?
そんなことはないわよね…
冥界とのチャンネルが開けばさすがに誰でも感知できるわ
「だったら、いったい誰が…。」
「ミスティー!見つかった!?」
そうだわ、そんなこと考えてる暇なかったわね
「いいえ、まだよ!」
二人を探さないとね
でも、どこに?
空間内ではなにも感じない
まさか、本当にふっとんだんじゃ…
が、その時
「あ!!おったで!!」
ワドラが叫ぶ
急いでその場に向う
「どこ!?」
そこに、新たな空間の中で幸せそうに眠る二人の姿があった
「…確かに、違う空間の中に入られとったら反応も感知できへんけど…。」
「空間内にもう一つ空間を作りだすなんて…。」
とてもじゃないけど、私達にはできないわ
「ワドラ、結界はずしって、持ってる?」
「ちょっと待ってな…。」
そう言ってポケットを探すワドラ
「…あったで。」
「じゃあ、急いで空間を解除しましょう。」
「待った、ミスティはん。」
「なに?」
こんだけ高等な技を、うちらで解除できるんか…?
それに、梓零はんが空間を創って力を抑えたとしたら
解除すれば当然、その力が一気に飛びだすことになる
「…こうならんとは言えんし、もうちょい様子見たほうがいいんとちゃう?」
ワドラの考えにミスティはしばらく考える、が
「…確かにそうだけど…。」
このまま放っておいてもいつ目覚めるか分からないし…
それに私はさっき覚悟を決めたわ
アストとなら、死んでもかまわないってね…
「やっぱり、解除しましょう。」
「了解や。」
そして、ワドラが結界の解除を行おうとした
その時、二人がいる空間が光りだす
そして、空間が自動的に閉じて行く
「ワドラ、もう解除したの?」
「いや、うちはまだなにもしてへんで…。」
私達に反応して空間が閉じた…?
こんな高度な技を…
アスラシャムや私達にはとうてい不可能な魔法…
「ということは…。」
アストが…目覚めた!?
間違いないわ
徐々に解除されて行く空間からアストの気が感じられる
「ミスティはん、まさか…!?」
「ええ、ついに目覚めたみたいね…!」
空間内に閉じ込められていたアストの強大な気が開放されていく
もう数えることのできないぐらい過去に存在した懐かしい匂い
懐かしいアストの気配
今でも忘れることのできないぐらい
私はこの人の匂いが好き
早くあなたに…会いたい
そして完全に空間が閉じると、まずアスラシャムが目を覚ました
「う、うぅん…。」
「気いついたか!?青葉はん!」
「…あれ、なんで二人がここに…?」
私はさっきキュスティさんに刺されて…
それからの記憶が…ない
私、死んだんじゃないのかな…
それとも…
「ひょっとして、みんな死んじゃったとか…?」
ぽかっ
「い、痛い…。」
美堂さんに殴られた
なんで〜、私、なにもしてないよ〜…
「痛いよ、美堂さん〜。」
「痛いってことは、生きてるってことだろ?さっさと目を覚ましてよく見てごらん。」
「うー…。」
眠たい目をこすって、周りを見る
そこには、壊れたはずの町が治ってたり…
辺りには、懐かしいアストの気配が漂ってたり…
となりには、梓零くんが倒れてたり…
「…ええ!?」
思わず大声を出す
梓零くんの背中には、六つの翼が寝息を立てていた
額には、人間には無い三つ目が、気持ちよさそうに眠っている
「…ひょっとして、梓零くん…!?」
二人のほうを見る
同じことを考えていたのだろう
ただただ、うなずくばかり
…成功、したんだ
私達の長い歴史も、もう終わるんだ
そして、アストの記憶を探す旅が終わったんだね…
これでもう、思いだしてくれたのかな…
「それにしても、気持ちよう寝てるなあ。」
「そうだね…。」
こっちまで幸せな気分になるぐらいに、気持ちよさそうに寝てるね
長いまつげに
さらさらの髪の毛…
やっと、また会えたんだね
あれからだいぶ経っちゃったけど
私のことも思いだしてくれるよね
…なんてあいさつしたらいいのかな
寝てるぐらいだから、おはよう?
それとも、久しぶり?
「ふ、ああぁぁぁ…。」
その時アストが目を覚ます
「おはよう、アストはん。」
「…久しぶり、だね、アスト…。」
二人が挨拶する
ううん、私は…
「おかえりなさい、アスト…。」
しばしの沈黙と、見つめあうアストとアスラシャム
そして
「ただいま、アスラシャム。…やっと、帰ったよ。」
「…うん!おかえりなさい!!」
私は、アストに抱きついていた
とめどなくこぼれ落ちる涙
この時を…どれだけ待ったんだろう
悲しい天使の記憶
繰り返される苦痛の歴史
やっと終わったんだね
「おいおい、苦しいって…。」
歴史の書き換えは終了したんだ…
これも、オレのおかげなんだろうな
俺だけでは無理だったよ
最後に、復活できるチャンスを捨ててまで俺に、この力の使い方を教えてくれて…
なあ、アストラディウス…
もう一人のオレ
美堂の剣が俺を貫いた時
正直もうだめかと思った
その時、俺と、オレの意識が入れ替わろうとした
俺の体には人間と天使の記憶が混じっている
意識がぶつかり合ったその一瞬で、俺は全ての記憶を見ることができた
こんなにも、悲しい記憶を延々と繰り返していく
俺には耐えられなかった
そして、これ以上俺がいても、オレの邪魔になるだけ
実際、俺の意識が邪魔なせいで、オレは表に出てくることはおろか
力を使うことすらできなかったのだから
俺がいなければ、青葉を助けられたのかもしれない
そう思うと俺は、オレに全てを任せようと考えた
融合した俺の魂と、オレの魂
七支刀の力で、分けられないものか…
できるなら、俺はこの身を譲ってもいい
青葉さえ無事なら、もうなにもいらないから
もう悲しい記憶を増やすのはやめてほしいから
俺が存在するせいで
青葉を、アスラシャムを傷つけるならば
俺はいらないだろう…?
だからこれからのことは、オレに全てを任せたい
消えるのは俺だけで十分だ
その願いを聞きいれてくれるかのように
七支の呪文は俺の魂だけを剥がそうとする
これでいいんだ
"あとは頼むぜ、アストラディウス…"
意識に直接話しかける
しかし、アストの魂が俺を離そうとはしない
"このままだと、二人とも死んじまうぞ…!"
頼むから離してくれ
"少年よ、私は言ったはずだ"
アストが初めて口を開く
俺に、言った…?何を?
"お前になら託すことができるかもしれない、と…"
そう、私は確信している
この少年になら託すことができると
この悲しい記憶を伝えた後に
自らを投げだして、私を救おうと思えるこの少年なら
今度の歴史は、今までとは違う
ここで、ミスティに殺されて終えるはず
しかし、今の少年は私を助けようとしている
ただ、その死に向って、歩むだけではなく
自分を捨てて、先に必要な選択をできる
これは今までとは大きな違い
これこそ、私が求めていたものだ
「時読み」には適切な判断が必要だ
場に流されての歴史では、今までのように繰り返してしまうだけだ
感情を捨て、全体を見渡す
この少年は、それを持っているのだ
やっと出逢えた
人間が持つ、「悟り」の持ち主に
神が与え、消し損ねた、唯一の神への対抗手段
「時読み」だけではなんの意味を持たない
一時しのぎの歴史はすぐに崩れる
神のように「時読み」、「悟り」
この二つが揃って初めて歴史は動き出す
この少年はその素質を持っていた
それが今回、ついに蕾をつけた
これさえ花開かせることができれば
私の夢も終わる
あとは、この少年を生かすだけだ…
"これを、受け取ってもらえるか?"
アストが、光るものをとりだす
もちろん、意識同士で話しているから、形などは分からない
ただ、そんな気がした…光るモノのように見えただけだ
ひょっとしたら形などは無いかもしれないけど
でもやわらかく暖かい気を放っているのははっきりと分かる
"…これは?"
"私というモノが存在していたという、ちっぽけな証…"
最後のわがままだ…
この私のちっぽけな天使の力と小さく残った私の心
心の片隅にひっそりと咲かしてはくれないか…?
"でも、俺はもうすぐ消えるけど…いいのか?"
私の役目はもう終わった
天使の力の使い方はそれに記してある
これを使って、歴史を、人類を直してくれないか…
"後のことは、頼んだぞ…"
アストがそう言った瞬間に、俺とアストが入れ替わる
"おい!なにするんだ!死ぬのは、俺の役目だろうが!"
なにもできない俺が生き残ってどうするっていうんだ!
なにもできずに…死んでいく人を眺めつづけろというのか!?
"お前がいなくなったら…誰が青葉を助けるんだ!?"
"それは、お前の役目だ…だから、私は行く…"
俺に、何をしろと言うんだ…?
少しずつ俺とアストの魂が離れて行く
"俺と変われ!あんたは生きろ!"
お前が行ったら…
"お前が行ったら、誰がアスラシャムを助ける!?"
その言葉に一瞬反応するアスト
しかし、ただ微笑んで
"アスラシャムは、もう死んだんだよ"
何を言っているんだ?今、目の前にいるじゃないか!?
"これからは、その力で青葉さんを救ってやれ"
"…え?"
"お前にもわかっているだろう?あの子が、誰なのかということに…"
そうかもしれない
ただアストをこの場に繋ぎとめたくて発した言葉
今、目の前で倒れているのは、青葉という女の子だ
もちろん、アスラシャムとしての記憶や力を持っているには違いないけど…
"そうだ、この体が、私のものではないように…"
私達という持ち主は、すでに死んでいるんだ
ただ、生きたくて、存在したくてぶら下がっているだけだ
私もアスラシャムもすでに気づいているはず
あの青葉という子も、アスラシャムとしての人格は失われているはずだ
"だから、私はアスラシャムに会いに行く…"
"だけど、今死ぬことは無いだろ!?せめて…青葉を…"
"この力で、幸せな歴史を、創ってくれ…"
力の使い方は証に刻んである
だから…あとはお前次第だ
"少年、名前は?"
刻んでおこう
"…緋禮、梓零だ…。"
もう一人の私の名前を…
私ができるのはここまで
これ以上は君を、助けることはできない
失敗は許されないけど
君になら…任せられる
さあ、生きろ!!
私の思いを
この世界の行く末を
全てをお前に託す
そして、俺は再び体に戻り、意識を取り戻す
アストが残した"証"を心に宿して
俺は、全てを受け継ぐ
アストのためにも、アスラシャムのためにも
俺はこの力で、歴史を変えてやる!!



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