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Original Novel Yuki Presents



歴史の果てに


第11章

天使の復活



「そして、私はまず部下の二枚をあなたにぶつけたわ。」
「ああ、あの学校に現れた天使か…。」
ほんの数日前の出来事なのに、もう何年も昔のことに思える
「でも、あの二人が手助けしたせいであなたを覚醒させることはできなかったわ。」
「だから、デストさんが直接降りてきたの?」
「本当はね、あなたと一緒に戦うためにこの翼を手にいれたのよ。」
そう、覚醒したアストと翼を増やした私が協力すれば
あるいは神を倒せるかもしれない、そう考えたからよ
「でもね、あなたが私より弱かったら意味がないと思ってね。」
「それで、俺の力を試しに来たのか…。」
「そういうことね。」
でも、あなたは期待どうりに私を超えてみせてくれたわ
その、人間が持つ"悟り"の力を
「あなたの額の目、それが何か知ってる?」
「さあ?なんなんだ?」
正直よく分からない
ただの飾りのような気もするが…
「それはね、あらゆる未来を映し出すものよ。」
「はあ?」
「さっき、私の行動が浮かんできたでしょ?それのことよ。」
「なるほど…よく分からないが。」
デストが言うにはこうだ
"悟り"とは、神が最初の人間を作った際に埋めこんだもの
しかし、最初の人類は神にその力をふるった
そのため、神はその力を消し去った…はずだった
しかしそれは、遺伝子というレベルで人間の存在意識下に残ってしまった
時折人間界のあらゆるジャンルにおいて天才、と呼ばれる人が生まれる
これは、この力を無意識のうちに発揮しているためだという
俺は天使の魂を吸収したため、訓練すれば自在に操れるそうだ
「つまり、それがあれば神が歴史を変えても無意味にしてしまうものなのよ。」
「確かに。物騒な力だよな…。」
ただでさえまだ天使の力がよくわかってないってのに
これ以上わけのわからないもの増やさないでほしいのだが…
贅沢な悩みだろうか?
「とにかく、これで神への対抗手段はできたわ。」
「おいおい、まだ俺は手伝うとは…。」
「あなたが歴史を作るというのなら、最終的には神と戦うことになると思うけど…?」
確かに、その通りだが…
などと考えていると
「…この力は、ワドラ!?」
ふいに上から波動を感じる
間違いない、この感じは…ワドラだ
「え?どこ?」
「私も…分からないわ。」
二人とも辺りを見まわす
とその時、あの時のように映像が浮かびあがる
「デスト!逃げろ!」
しかし俺の声は一瞬遅く、浮かんできた映像と同じ光景が目の前にあった
「な…な…。」
何が起こったのか把握できずに、ただデストは俺を見ている
体から突き出た金属の先端が、真紅に染まる
「ひさしぶりでんなあ、梓零はん、青葉はん。」
デストの体を貫く七支の刀と、それを持つワドラ
そして消え行くデストの姿が映し出された映像と現実が交差する
「デストはん、裏切り者は…どうなるかわかってんな?」
「アスト…お願い、お父さんと…お母さんの…」
シュワッ…
言い終わる前にデストの体が四散する
「おい、ワドラ!いったいどういうつもりだ!」
「なにって…天界の法に従って処罰しただけや。」
「だからって…いきなり攻撃することはないだろ!」
お前達は仲間じゃなかったのか?
「話しかけたらうちがやられる。先手必勝、決まっとるやろ?」
「だからって、ひどいよ渡辺さん…。」
青葉の言う通りだ…それに
「お前、なんかおかしいぞ?」
以前のワドラなら、こんなことはしなかった
アストの知っているワドラ…でもない
「とりあえず、うちの本当の目的はそっちに用があるんやけど…ついでにな。」
そう言って青葉のほうを向く
ついでに、デストを刺したと言うのか!?
俺は、ワドラに向き合い翼を広げる
「梓零くん!?」
「なにをするかは知らないが…青葉には、指一本触れさせない…!」
その時、もう一つ力の気配を感じる
「お約束な台詞ね。もう少し気の聞いた言葉、知らないの?」
「…ミスティ。お前も、か?」
ミスティ、以前のままではないのか?
「私達は別に変わっていないわ。違うのはあなたよ、アスト。」
本当の私達、天使というものを知らないあなたこそ、ここにいてはいけないのよ
あなたがいる限り、アストは復活できない
だから、殺してあげる
信じることのできない、絶望の中、消滅しなさい
「いくわよ、ワドラ!」
「了解!」
二人が展開する
ワドラの狙いは…青葉だ!
「させるか!」
俺は青葉の前に回りこもうとした、しかし
「あなたの相手は私よ!」
カキイィィィン!!
ミスティの剣とぶつかり合う
「いくらアストの力とはいっても、覚醒したばかりなら私一人で十分よ!」
「くっ!」
悔しいが、その通りだった
ミスティにいなされているのが分かる
こうしている間にも、青葉が…!
「大丈夫、別に殺したりせえへん、アスラシャムの人格を呼び覚ますだけや。」
なに?
アスラシャムは死んだんじゃないのか?
「よそ見してる暇はないよ!」
ズバアァァ!
一瞬の隙をついてミスティの剣が飛んでくる
「ぐうっ!」
致命傷ではないものの、かなりの深手だ
体が半分、浮いている感じがする…
俺はその場におもわずしゃがみこむ
「さて、邪魔者は止めたわ。」
「青葉はん、別に、痛いことするわけやあらへんから、安心してな。」
そう言うとワドラは青葉に向ってなにやら呪文を唱える
「梓零くん、助けて…!」
情けない
俺は、もう青葉に苦しい思いをさせないために、この力を受け取ったんじゃないのか?
目の前で、助けを求められているのに、なにもできないなんて…
自分の非力さが悔しい、情けない
なんとかして体を動かそうとする
しかし、健を斬られているのか、指一つ動かすことができない
「もう少しで終わるから…じっとしていなさい。」
そして、ワドラが呪文を唱え終わった
「い、いやああああ!!!!」
青葉が叫ぶ
「成功なの?」
「ああ、これでアスラシャムはんと融合するはずや。」
「これで、三大天使の復活ね。」
動け…動け!
今の俺には力があるんじゃないのか!?
"訓練すれば使いこなせるわ"
デストの一言が頭をよぎる
しかし、それでは遅いんだ…!
力の使い方は知っている…
後は引き出すだけなのに…!
「うおおおおおおお!!!」
俺は無理やり力を開放しようとする
「無駄よ。人間の体に、六枚分の天使の力なんて、受け入れられると思うの?」
ミスティの言葉は正しかったかもしれない
人間の身に天使の完全なる力など、操れるわけがない
アストもそれを感じていたからこそ、俺に「時読み」しか託さなかったのだろう
訓練すれば、それらを引き出すことも可能かもしれない
だけど…俺には時間がない
それに諦めてしまえば、可能も不可能になるだろう
いや、不可能というものは行動した結果、得られるものだ
何もしなければ、何も生まれやしない
行動するからこそ、そこに失敗という言葉が浮かぶんだ!
だったら俺は、行動することを選ぶ!
もし人間の体に受け入れられないのならば
そんな肉体、捨ててやる…!
バチイィッ!!
辺りに力が弾ける
溢れた力が外に出て行こうとする
それを、おれは無理やり体に押しこめる
「梓零はん!それ以上やったら…ふっ飛ぶで!?」
「かまうもんか…!」
心の奥の力を、無理やり外へと置換する
そして、辺りが光に包まれた
「ワドラ、まさか…!?」
「暴走、なんか!?」
俺には二人の声がはっきりと聞こえた
俺は生きている
以前の、怒りに身を任せた力とは違う
体の隅々に力が行き渡るのが分かる
それに伴って徐々に辺りの空気の呼吸、生物の呼吸、地面の呼吸…
あらゆる物質の流れが、こと細かに全身に感じる
アストすら、限界という壁を自ら作りだし、その存在にすら気付かなかった力
それを、今解き放つ!!
これが、アストの持つ全ての力だ…!
「美堂はん、この力はなんや!?」
「ばかな、神と互角、ですって…?」
この体にまとわりつく威圧感
全ての存在を圧倒する力
「青葉…今助けるぞ!」
光が俺に収縮し、辺りは静寂さを取り戻す
全ての力を開放した俺の背中には、八枚の翼が広がっていた
「ちっ、ワドラ、いくわよ!」
「了解!」
二人が飛びかかってくる
俺はかまわず青葉に駆け寄った
「青葉!大丈夫か!?」
「な…!?」
「速い!」
初めからそこにいたように思わせるほど、速い
これは、移動なんて呼べる代物じゃないわ…!
「青葉!しっかりしろ!」
「無駄や、梓零はん。もう、人格形成は終わっとる。」
その言葉通り、青葉が最初に口にしたのは
「…あなた、誰?」
全身の力が抜けた感じがした
今俺の目の前にいるのは、姿かたちは青葉である
しかし、青葉という人格は失われ…代わりにアスラシャムがそこにいた
「おい、青葉…何を言ってるんだ?」
「あなたこそ、何を言ってるの?軽々しく触らないで!」
アスラシャムは俺の手をふりほどくと、ミスティ達のもとに移動する
「久しぶりね、ミスティ、ワドラ〜。」
俺はただその場に立ち尽くしていた
本当に、あれはアスラシャムなのか?
もしそうだとしたら、青葉は…
青葉は、どうしてしまったんだ?
「青葉は…どうなったんだ?」
「残念やけど、アスラシャムの人格と入れ替わってしもうたみたいやな。」
「まあ、死んだんじゃないから安心することね。もっとも、死んでるのと同じでしょうけど?」
ふふふ、いい流れね
このまま、この世界に絶望しなさい
守るべき人を失った絶望感を…味わいなさい!
「死んでない…?」
確かにミスティはそう言った
「そうね、表に出てこれないだけよ。」
「そうだよ。一つの体に、二つも人格はいらないんだもん。」
アスラシャムが…言う
「もっとも、記憶は覚えてるけどね。あなた、私のこと好きだったんでしょ?」
笑いながら、次々に俺と青葉の記憶を掘り出し、晒していく
それも、愉快に、楽しそうに…
天使とは、こういう生き物なのか?
デストの話しも、魔界での出来事も、地上でのことも…
他人をあざ笑い、壊して行く…
俺は、青葉が…心の中で、泣いている気がしてならない
「それ以上、青葉の記憶を傷つけるな…!」
ゴワッ!
辺りの空気が変わる
別段何かしたわけではない
俺の感情が場に現れただけ、それだけのことだ
「やだなあ…そんなに恐い顔しないでよぉ〜。謝るからさ〜。」
その時
プアァーーン
電車が到着した
その電車に乗るのであろうか、一人の女性が走ってくる
「あ、まずいね?見られちゃうよ〜。」
「そうね、国家レベルの情報では一般へは不可侵が決まってるし…。」
「ばれたら、戦争やな。」
なにやら三人で、相談している
「じゃあ、殺しちゃおうよ。」
そんなことを平然というアスラシャム
おかしい、何かが違う
アストの記憶と…微妙に、違う
「お前達、やっぱりおかしいぞ…?」
「そんなことあらへん。」
「そうよ、神の言う通りに動いているだけですもの…。」
まさか…操られているのか?
いや、これは…洗脳の類か?
少なくとも、自我で考えて、行動している
「きゃああーーー!」
そのとき、不意に叫ぶ声がする
「しまった!」
一瞬考えこんだとはいえ、先ほどの女性の接近に気がつかないとは…!
「ごめんね♪」
「やめろ、青葉ーーー!!!」
その声は、届くことはない
今青葉の体を支配しているのは…アスラシャムなのだから
アスラシャムは、笑みを浮かべて…その女性に刃を突き立てる
「なぜだ…なぜ殺す必要がある!?記憶を消せばそれで済むことだろう!」
「やっぱり、梓零くん…おかしいよ?」
…俺がおかしい?
「それより…青葉なのか?」
「いつもの梓零くんに戻ってよ…ね?」
青葉が歩み寄る
本当に、青葉なのか?
だけど、気配が違う…
次の言葉で俺は確信する
「私達のこと見られたんだよ…?いつものアストなら、殺しちゃうよね♪」
やはり…青葉は、もう…?
「アスラシャム、からかうのはいいかげんにして、帰るよ。」
「そうやで、そろそろ騒ぎになっても…」
「なんだ、今の叫び声は!!」
「駅のほうだぞ!!」
その声を聞き、駅にいた人が向ってくる
「まずいね♪」
「喜ぶんじゃないわよ。」
「ほな、いったん引き返しましょ。」
またね、アスト
準備は整えたから
後は、信じるものを失った絶望感を感じなさい
所詮、人間なんて一方からしか物事を見ることができないのよ…
「待て!」
俺は三人を止めようとしたが、間に合わなかった
「くそ…どうする!?」
このままでは…どう見ても俺が犯人だ
かと言って…逃げては、あいつらと同じだ
「だったら、俺は…。」
「いたぞ!!」
「逃がさねえぞ…って、うわああああ!!!」
俺の姿を見て一人が叫ぶ
それもそのはずだ
あとで警察の鏡を見て気付いたが、血まみれの翼を広げた姿…驚かないわけがない
だから、そこで俺は全てを話した
天使達が、していることを
だが、誰も俺の話しに耳を貸さなかった
当然だ
"世界を守る者"である天使が、歴史を操っているなんて、夢にも思えないだろう
とりあえず、証拠不充分ということで俺は釈放されたが…
すでに、街中の噂になっていたのを知ったのは、翌日学校に行ってからだった



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