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Original Novel Yuki Presents



歴史の果てに


第12章

決戦、そして...



あの日、警察に連れて行かれた時、俺は全てを話した
もちろんある程度のことは黙っていたのだが
というより天使についてはほとんど話してはいない
俺の存在自体が人間には理解できなかったからだ
3日にも及ぶ数々の精密検査の結論は「人間」であった
体の構造、構成…全ては人間と同じ物だった
しかし背中には八枚の翼と、額の目
まったくの「異常」な体でしかなかった
政府は天界との関係の悪化を恐れ、全てを隠蔽しようとした
しかし、あの場にいた人からの口ずてによって噂は確実に広まっている
世界に、マスコミに知られるのも時間の問題だろう…
そしてその帰り道…俺は初めて人を殺した
「ふう…。」
これで何度目のため息だろうか
今日のところはまだこの事件のことは知れ渡っていないかもしれない
けれど、あまり寮には帰りたくなかった
もし、天使達が襲ってきたら…
俺のせいで人が死ぬところは見たくはない
「だけどこのまま野宿っていうのもちょっとな…。」
自分でも矛盾しているのは分かっている
野宿するぐらいいいじゃないか
そうすることで誰にも迷惑がかからないのなら
それを人間である一部分が邪魔をする
「わがままなやつだな、俺は…。」
などと考えていると一人の男が俺の前に姿をあらわした
「緋禮、梓零さんですね?」
「そうだけど…あんた誰だ?」
嫌な気配
なんというか…気分の悪い気配を発している
血の匂い?殺意の波動?
どちらとも思えないが、そう言われれば納得してしまう、そんな不思議な気配
「私たちはあなたのような異端の存在に対処する…特殊な警察、ですよ。」
するとどこからともなく数人の男が出てきて俺を取り囲む
ばかな…気配はこの男一人のものしか感じなかったのに…!
「といってもこれで出動は三回目ですから。あなたは私達の存在すら知らないでしょうが。」
確かに…男の言う通りだった
俺はこいつらのことはおろかこんな特殊部隊の存在すら知らない
知らないというよりも、気配すら覚えたことはない
「あなたを"天地魔三国保障法案第15条"にのっとって、処刑します。」
天地魔三国保障法案…
世界レベルでの高官どうしによって取り決められた法案
各世界の安全を守るために作られた法案である
と、アストの記憶の中に見つけることができた
「処刑とはまた、物騒な言葉だな。」
「私達は天使や悪魔に対しての有効な策を持っています。諦めなさい。」
その言葉を合図に男達は微塵も気配を発することなく俺に襲いかかってくる
天使の感覚を持ってしても動きを捕らえることができない…?
よく見ると全身を妙なスーツで覆っている
これのせいで気配が掴みづらくなっているのか?
目で捕らえられた目前の二人はその場で切り捨てることができた
しかし、他の二人の行動はまったくもって把握できなかった
音も無く俺に向けてなにかを発射する
それが毒だと知ったのは倒れてからだった
すぐに体に痺れるような痛みが走る
「くっ!」
俺はその場に倒れこむ
体がいうことを聞かない…
「それは、あなたのような異端の存在を殺すために作られたものの一つです。」
そう言うと男は…ミスティが持っていたものと同じ七支の剣をとりだした
「これもそのうちの一つですが…この間天使に情報を盗まれたのは失敗でしたけど。」
「まあ盗まれたものは実験段階で、魂を切り離すことはできないものだけどな。」
別の男が付け加える
七支刀はミスティが作ったんじゃないのか?
そもそも天使と悪魔を殺すような技術を、人間が手にいれられるのか?
「あなたたちは人間のことを軽く見すぎています。ですからこういう事になるのですよ。」
俺は言葉が無かった
確かに人間界の機密レベルの情報など知ることはできない
天界などとは比べられないほどセキュリティが高い
本当の敵は、人間だったのかもしれない
でも、なぜ…?
俺がなにをしたんだ
あの女性を殺したのは…アイツラだろう?
なぜ、アイツラを探さない?
ふつふつと怒りがこみあげる
まただ…この感覚に、負けてはいけない…!
必死に耐えている俺に追い討ちをかけるかのように別の男が言った
「このバケモノめ…お前のようなやつのおかげで、どれだけ俺達人間に迷惑がかかると思っている…?」
くくく、と他の男達も笑う
…俺は、バケモノなのか?
…人間のために神と戦おうとしている俺は、バケモノなのか?
…誰のおかげでみんな幸せに暮らせていると思っている…!
そのバケモノに助けられて生きているお前達は…
それ以下の虫けら、か?
潰されてたやすく死んでしまう…虫と同じなのか?
自分達ではなにもせず…都合のいい時は、天使様?
状況が悪くなれば…バケモノへと変化する、俺はなんなんだ?
この天使特有の感覚に、負けてはいけないのは分かっている…
だけど…いろんな出来事の数々
それらが俺の神経を圧迫する
全てを抑えきれるほどの余裕は無かった
なにかのきっかけで決壊するほど、俺の心はもろくなっていた
暴れだそうとする狂気を止めることはもうできなかった
あの時…キュスティを斬った時のような狂気を…
痺れはいつの間にか消えていた
俺は起き上がる
「な…ばかな、なぜ立ちあがる…!?」
よほどこの攻撃に自信があったのか、男達は驚きの色を隠せないようだ
「虫けらは虫らしく、死ね。」
俺は一瞬で差を詰めると、一人の男を潰してやった
ひい、と悲鳴にならない悲鳴をあげる男達
そして横にいた男のほうにを睨む
睨まれた男は動く暇も無く豪火に包まれる
パチパチパチ…と音を立てて燃えていった
「さて、残りはお前だけだな。どんな死に方がいい?」
すると先ほどから喋っていた男は、七支刀を持って襲いかかってきた
相打ちを狙うとは殊勝な心がけだが…
相打ちというものは同じ力量の相手にしか通用しないものだが
そして俺はそれを腕ごともぎ取る
「な、あ、あ…。」
男は自分の腕を見て呆然とする
「これを人間に使えば…どうなるんだろうな?」
そして俺は最後の一人に七支刀を突き刺す
すると糸の切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちた
「まだ息がある。…やはり魂だけを切り離すことは間違い無いみたいだな。」
人間は天使と違い肉体と魂の二つが無ければ活動を停止してしまう
「つまり、生きる屍のできあがりというわけだな。」
これさえあれば神を殺すことができる
いい物を手にいれた…礼を言うべきだな
さらにミスティの持つ七支刀は偽物ということも大きな勝因の一つとなる
俺は昂ぶる気持ちのまま神と…天使と戦えることが楽しみになっていた
人間を殺したという罪悪感を忘れてしまうほどに…
「だめだ!!」
慌てて理性を保とうとする
辺りの惨劇を前になんとか人間である自我を呼び戻す
俺がしたことは事実である
目をそらしたくなかった
「こんなことで暴走するやつなんて…バケモノだよな。」
自嘲気味に笑う
無念のうちに死んだ魂は苦痛を伴いながら次の転生を待つ、とミスティ達が言っていたような気がする
俺はその男達の魂を浄化させるべく七支刀で斬った
せめてもの償い、というわけではない
許される行為ではないのだから
「俺はやっぱりここにいるべき存在じゃないのかもな…。」
そして重い足取りで寮に帰った


それから数日、俺は…そのことについてなにも感じようとしなかった
後悔の念に囚われていれば、襲ってくる者の気配を読み取りにくくなる
それに、どこかで一瞬でもそれを受け入れれば、全てが崩れてしまう気がしたから
あれは正当防衛なんだ、と自分に言い聞かせた
そして…学校、寮、街、何処に行っても俺は邪魔者扱いだった
この間の事件については、政府の隠蔽により外部に漏れることはなかった
しかし、駅での出来事は簡単には消えてくれなかった
仕方がないといえばそれまでだったけど…
「俺だって逆の立場だったらな…。」
どうするか、を考えると…否定できなかった
そしてさらに数日が過ぎた
いつものように学校ではみんな俺のことを話している
「あいつって、前からおかしいと思ったんだよ。」
「そうそう、Sランク受かった時だろ?」
…あの時は実力で受かったんだよ
ま、いまさら言ってもしょうがないけどさ…
模擬戦闘の時も
「ああ、もう参加しなくていいぞ。…高価な機械を壊されたらたまらんからな。」
先生よ、そういうことは俺が聞いてないところで言ってくれ
体育の時も
「ふ〜。」
野球ね…
俺のところには打球は飛んでこない
打席が来ても敬遠
俺はグラウンドに座っていた
こうして空を眺めていると…
つい、あの頃を思いだしてしまう
「あの時…楽しかったよな。」
すると
カキイィィーーン!
打球がみるみるこちらに飛んでくる
俺のはるか頭の上を…
超えてはいかずに、俺は翼を出し、10メートルほど飛びあがりキャッチする
こういうことするから嫌われるんだろうけどな…
分かってるならやめればいいんだけど…なあ
「…おいおい、なんだよあれは。」
「つまんねーことするよな。ホームランだってのによ。」
「しょうがねえって、あいつ、バケモノなんだからさ。」
…聞こえてるっての
案の定ひそひそと話しだす
こういうのは相手にするとうるさいから…無視と
「お前ら、いいかげんにしろよ!!」
するとグラウンドに叫び声が響く
だけど、俺じゃないぞ…?
と、その声の主は田中だった
「なんだよ、田中。」
「緋禮がなにかしたのか!?お前らそんな簡単に…友達裏切れるのかよ!」
「おい、田中。お前…あいつとグルなのか?」
数人が田中に掴みかかる
俺の昔からの親友…田中
俺のこと、信じてくれるんだな
だから余計に…
「おい、いいかげんにしろよ。」
「ひ、緋禮…。」
「おい、緋禮…いつまでも黙ってないで、なんとか言えよ!」
「勘違いするなよ、田中。」
「え?」
「俺は、別にお前のことなんか友達と思ってないからよ。」
それだけ言うと俺は、校舎のほうへ歩いた
「おい、田中。これでわかったろ。」
後ろのほうで先ほどの数人が田中を言いくるめている
これでいいんだ、田中
俺に関わって…お前まで巻き添えにしたくないからな
「だからさ、あいつはああいうやつなんだよ。」
みんなが口々に緋禮のことを悪く言う
お前らに、なにが分かるって言うんだ…
「そうだな…よく、分かったよ。」
それに緋禮…お前の本心、分かったよ
この濡れた砂が、なによりの証拠だよ
やっぱりお前は…俺の親友だ…
「おい、何泣いてるんだよ、田中…?」
「いや、砂が入ってさ…。」
俺はお前のこと…信じてるから
だから、帰ってこいよ、きっと…


それから俺は学校に行くのを止めた
寮に戻ることも止めた
俺がいれば、回りの人間に迷惑がかかる
それだけは避けたかった
公園のベンチで寝る毎日
どれだけ、繰り返したろう
「…どうするかな。」
結局、アストとの約束も果たせないまま、毎日が過ぎて行く
今の俺にできること…
「そうだよ。」
俺にできること、いや…
俺にしなければいけないこと
アストと、アスラシャムを合わせてやることだ
あの時、青葉の中に宿ったものがアスラシャムならば
今、俺が死ねばアストも戻ってこれるんじゃ…
「確か、ミスティ達もそんなことを言ってたような…。」
俺がこの体に居座っているから、アストは戻ってこれない
そんなことを言っていたような気がする
だけど…それでいいんだろうか
「それに、死に方ってわかんねーし…。」
中途半端な体のせいで、俺は死ぬことはおろか傷つくことすらできない
すぐに治ってしまうのだ
「しょうがない、寝なおすか…。」
再び俺は目を閉じる
再び目覚めることが無ければいいのに…
そう思いながら、俺は目を閉じる
「でもまた、目は覚めるんだよな。」
すぐに起き上がる
この繰り返しにももう飽きたな…
それにこの数日一定した生活をおくってないような気がする
俺は目覚まし時計がないと起きれないたちだった
「そうだ、俺の荷物…。」
それで思いだす
愛用の時計とともに荷物は寮に置きっぱなしだ
あのままだと後の人間が使えないぞ…
「しょうがない、取りに行くか。」
俺はなるべく人目に付かないように寮へと向った
その途中で学校の近くを通る
「…この風景を懐かしいと感じるのは、どうなんだろうな…。」
いつもの登校風景なのに、ひどく懐かしく感じる
「…この道、確か田中が車に轢かれそうになったっけ…。」
笑い話ではないが、今では楽しい想い出に思える
電車に間に合わそうと、走って…
「ここって、結構車の通り激しいしな。」
高速道路のインターが近いため、トラックの通りも多い
などと考えていると、また映像が浮かんでくる
目の前で、母親同士がなにやら話している
横で子供達が遊んでいるが…
そのうち、ボールが転がってしまう
それを拾いに道路に子供が…
「…ふう。」
時折俺に見せるこの未来
たわいのないものから命に関わるものまで、さまざまだ
発動する時もばらばらだし…
「いったい、俺にどうしろというんだ?」
目の前で、変えることのできない未来を…見せつけて
俺に歴史ごと書き換えろというのか?
冗談じゃない
なんで、ドブに落ちるおばさんの未来のためにいちいち歴史を書き変える必要があるんだか
しかし…子供が目の前で車に轢かれるのを見逃すのは…
「寝覚めが悪そうだな…。」
俺はタイミングを見計らって翼を広げる
パパパパーーーー!!!
トラックのクラクションが鳴り響く
子供はなにが起きているのか分からずただその場に立ち尽くす
「きゃああーーー!!」
母親の悲鳴が辺りにこだまする
俺はとっさに子供を突き飛ばす
そのおかげで子供は轢かれずにすんだが…
俺はそのままトラックにはねられる
キキキーーーー!!
トラックが止まる
「紗耶!!」
母親が叫ぶ
「ばかやろーー!!急に飛びだすんじゃねえ!!」
「いてて…ここは歩道だぞ?」
ゆっくりと立ちあがる
「ひっ!?」
トラックの運転手が悲鳴をあげる
それもそのはず、目の前には天使が立っているのだから
「あんたなあ…せめて歩道ぐらいは確認して進めよな。」
「お、俺が悪かった!許してくれ!!」
運転手が必死に謝ってくる
俺は無視して先ほどの子供のもとに行く
「大丈夫だったか?」
「うん。…ありがとう、お兄ちゃん!」
するとその子の母親が駆け寄ってくる
「うちの子に何するんですか!」
…なにって、助けてやったのにそれか
「おい、あんたも母親ならちゃんと子供のことぐらい見てろ。」
「見てましたよ!あなたがこの子を突き飛ばすところを!」
つまり、俺の行動ははたから見れば、この子を突き飛ばしたように見えたらしい
実際ぶつかる前に押し飛ばしたのだからそう見えなくもないが…
救助者が一変、加害者にされるとはな
俺はその場を後にしようとして、運転手と目があった
「ひい!頼む、殺さないでくれ!!」
「…後ろの車が迷惑してるぞ。」
そう言って、道を横切ると
「お兄ちゃん…。」
さっきの子がついてきた
「紗耶!こっちにいらっしゃい!」
だが、トラックが走りだしたため、後続車両が次々に走りだす
そのため向こうに渡るのは至難の技だ
「ねえ、お兄ちゃん…。」
「ん?なんだ?」
「…悲しいの?寂しいの?」
俺の目を覗きこんでくる、そんな感じのする目だ
「なんでそう思うんだ?」
「私ね、嫌われてる子だから…。みんなの気持ちが分かるの。」
これをするとこうなる、ていうのが分かる、そうその子は続けた
…これも"悟り"なのだろうか?
こんな小さい子が使えるなんて
「私、みんなにいじめられるの。お前は気持ちが悪いって…。」
その子は今にも泣きだしそうな勢いだ
「その力はいつかきっと、誰かを幸せにできるから…ね。泣いちゃ駄目だ。」
「…いつ、くるの?」
「それはね、自分で探すんだ。」
そう、待っているだけでは何も動かない
自分から行動しなければ道は開けない…
恥ずかしいよな…
立ち止まっている自分がここにいるのに
説教できる立場じゃないってのに
自分で言って、自分になにかが刺さった気がした
「よく、わかんない…。」
「じゃあ、お兄ちゃんはもう行くね。」
きびすを返し、寮に向う
「お兄ちゃん!」
「なんだ?」
「悲しい時は、いっぱい泣くとすっきりするんだよ!だから…」
「…ありがとう。」
以前青葉に言われた言葉と交差する
俺はこの時少しだけ人間に戻れた気がした
あの事件以来失っていた、その心を
本当のバケモノになっていた自分から、昔の自分を再発見することができたかもしれない
だから、俺はこの子のことを忘れなかった
そしてちょうど駅にさしかかった頃、辺りは薄暗くなってしまっていた
なにやら口論している人がいる
どこかで見た顔だが…
「クラスの、清水か…?」
特に面識があるわけじゃないしな
これ以上面倒なことに首突っ込むのも、なんだかな…
通りすぎようとする
「いいじゃねか、一回ぐらいよお!」
「ふざけんなよ!」
「そっちがその気なら、こっちにも考えってもんがあるぜ?」
男が三人、清水にくってかかる
険悪な雰囲気だが…
ま、俺が出る幕じゃないなー、と思った時
「あんた達ねえ、それ以上つきまとわったら…大声出すからね!」
「かまわねえ、車に乗せちまえ!」
男達は清水を無理やり車に押しこもうとする
清水も必死に叫ぶものの車の騒音にかき消されてしまい、回りの人間には届かない
仕方ないな…あんまり問題起こすなよ…
「おい、お前ら。」
見てみぬふりという器用なことはできない
そんな自分の性を呪った
「あ?誰だお前!」
「こいつのクラスメートだ。」
「関係ねえよ、引っ込んでな!」
俺だって、関わりたくなかったけどな
「ひ、緋禮…くん?」
その言葉が出た瞬間、三人の顔がひきつる
「緋禮ってあの…。」
「バケモノの!?」
「おい、逃げるぞ!」
慌てて逃げだす三人
まったく、逃げ足だけは速いな…
「大丈夫か、清水。」
「う、うん…。」
震えているのが分かる
別になにもしないって…
「お前って遊んでるように見えるから、ああいうのが寄ってくるんだよ。」
「あ、あの…その…。」
「気をつけて帰れよ。」
「う、うん…。」
俺もお人よしだな
さっきの子供の言葉がなければ、きっとなにもしなかっただろう
「俺の弱点は精神面か…直せないよな。」
と、駅の時計を見ると
…寮に行くだけなのに、こんなに時間がかかるなんて
「ついてない一日だな。」
そうこうしてやっと寮に着いた
誰にも気付かれないように部屋に入る
すると、数日前のままの部屋がそこにはあった
「…こんなことで感傷に浸れるなんて…。」
ひどく懐かしく感じる部屋を俺はあちこちを見渡す
すると、青葉の鞄を発見した
持ち主のいない鞄が、ひどく寂しく見えた
「さて、荷物をまとめるか…。」
一通り身の回りの物を鞄に詰める
ガタッ
その時机に手をぶつける
「い、って〜〜。」
今のはもろにはいったぞ…
そのひょうしに青葉の鞄が机から落ち、中身が散らばる
「あーあ…。」
それを拾い集める
偶然にも、一冊のノートが開いてしまっている
そこには…

4/9
…また会えたね
ついにこの日が来た
また梓零くんに会える日
これで五回目だね…
今度こそ、ずーっと一緒にいれたらいいね

それは日記帳らしく、その日の出来事が綴られていた
ぺらぺらとページをめくってみる
おかしなことに、一ヶ月先まで書いてある
「何を書いてるんだ…?」
やはり青葉は全てを知っていたのだろうか?
だが、先のことには一切天使達に関わることは書いていない
そこには、必ず俺がいた
そして俺は一つだけ違いに気付いた
ある日までは必ず"また、会えたね"という書きだしで始まっている
だが、それ以降は"また、会えるといいね"というくくりに変わっている
そして内容も様々だった
ある日までは実際に起こった出来事が書かれている
例えば俺が襲われたことや、一緒に街に行ったことや…
それが突然雰囲気を変える
"〜へ遊びに行く"、"〜をする"等のように…
「これは…青葉の希望の未来なのか…?」
実際、日記の内容とは違った現実が訪れている
それに、これの持ち主は…もういない
それは、この日の日記を見て確信に変わる

4/14
私が私でなくなる日
お別れするのはとっても、つらいけど…
ううん、別れでない別れは梓零くんの方がつらいんだよね
あの時、一緒の空間の中で梓零くんが見せてくれた未来
もしあれが真実なら…
私は、どうするべきなんだろう?
梓零くんを苦しめるだけになってしまう
だけど私は最後まで一緒にいたい…
これって、わがままだよね
暗いところで独りぼっちになるのは恐いけど
私はこの未来を受け入れようと思う
私は本来の私に戻るだけ
ただ、それだけのこと
私のことは忘れてもらってもかまわない
私がずっと覚えていれば…それでいいんだから
今度は…普通の出逢いがしたいね

また、会えるといいね

「この日は、アスラシャムが青葉と入れ替わった日だ…。」
俺がアストから力をもらった時
すでに青葉はこの未来を知っていたんだ
俺を困らせないために、ずっと自分の中にしまっていた
「なんで俺はあの時気付かなかったんだ…!」
今更後悔するのは間違っているかもしれない
後悔と言うよりは、自分の浅はかさに呆れているのかもしれない
なにが悟りだ
他人に不幸な未来を見せるのが悟りなのか?
もっと早く知っていれば歴史を動かせたかもしれないのに
「まったく、役立たずな能力だな…。」
俺は泣いていた
青葉の、叶うことのない夢を見て泣いたのかもしれない
そうやって逃げて、無力な自分を責めていたのかもしれない
どれだけ泣いたのだろう?
いや、とうに泣き止んでいたのかもしれない
いつの間にか俺は荷物をまとめていた
「この日記帳…持っていきたいけど…。」
"また、会えるといいね"
俺はこれに返事を残してここに置いて行くことにした
青葉はきっとここに取りにくる
その時に無くなっていたのでは、青葉も困るだろう
だから、鞄と一緒に、ここに置いていく
最後のページに
"また、会おうな"、と付け加えて…
そして部屋を出る
気付かれないように寮長の部屋に鍵を置きに行く
「あんた、帰ってたのかい!?」
だが、速攻で見つかった
「悪いけど、今日で出て行くから…はい鍵。」
そうして出口に向う
「いつでも帰っておいでよ。ここは、あんたの家なんだからさ。」
…おばさん…
「あんたは、いや…この学校の生徒はみんな私の可愛い子供なんだからね。」
「…ありがとう。」
俺は、振り向かずに寮を後にした
それは、涙を隠すためでもあったのかもしれない
それからまた公園へとやってくる
適当なベンチに腰かけ、コンビニで買ったパンをかじる
「…死なないのに、腹は減るんだからな…。」
と、先ほど見かけた影がこっちに向ってくる
「よ、清水。どうした?」
「梓零くん、足早いよ…。」
「まあ、人間じゃないからな。」
皮肉でもなんでもない
いまさら隠してもしょうがないし…
だったら自分から話したほうが楽だ
「あれって、本当だったんだ。」
「まあな。」
カシュッ、っと缶コーヒーを開ける
「よかったら、飲むか?紅茶しかないけど。」
そう言って俺は買いだめした紅茶を差し出す
「ありがとう…隣、座ってもいい?」
「ああ。」
清水が隣に腰かける
しばしの沈黙、それを清水が破る
「学校、きたら?」
「俺は忙しいんだ。」
「嘘。私行きと帰りにいっつもここで寝てる梓零くんを見かけるよ?」
…ここは登校ルートだったか…不覚
「私みんなに言う。梓零くんは、なにも変わってない。私達と同じだって。」
「やめろよ。お前までとばっちりくらうぞ。」
そんな俺の意見を無視して話しつづける清水
「でね、明日遠足の班決めがあるんだよ。」
「それで?」
「遠足行こうよ。」
とてもそんな気分にはなれなかったが
「じゃあ、決まりね。学校で待ってるから!」
そう言って走りだす清水
「おい、俺は行くとは言ってな…」
「紅茶、ありがとねーー!」
はあーーー、と心の中でため息をつく
「俺が行ったって場がしらけるだけだろう…?」
だけど俺は心のどこかで学校に行きたい部分があった
最後に…みんなのこと、覚えておきたかったから
そう、俺という人間が、生きていたとみんなに覚えていてほしかったから…
「これって、わがままなんだろうか…。」
その日はなかなか寝つけなかった


翌朝、いつものように俺は目が覚めた
「ふわああ〜〜。」
ちらっと公園の時計を見る
「7時か…。」
…なんでこんなにも早く起きたのだろう
まさか、学校に行く気なのか?
「行ったって何も変わらないって知ってるのにな。」
だけど、これが最後のわがままだと思って、俺は登校することにした
懐かしい登校風景
懐かしい校舎
懐かしい友人達
全てを目に焼き付けたかった
そして俺が教室に入ると、予想通り雰囲気が変わる
だけど今日は何も感じない
逆にみんなと会えてうれしいぐらいだ
「今日で、最後か…。」
自然と口から出てしまった言葉
後のことなど考えていないはずなのに
そうしてHRが始まり、授業が開始する
いつもは退屈な授業風景も、今の俺にはひどく新鮮に思えた
そして一日が過ぎ、終業のHRが始まる
今日は遠足の班決めだった
「このクラスは43人ですので、一つの班だけが7人になります。」
司会役のクラス委員がそう言うが、その数には、俺と青葉も入っている
青葉はともかく、俺は…
「それでは、自由に班を決めてください。決まったら黒板に名前を書きに来てください。」
んじゃ、決まるまで俺は観戦してますか…と思ったが
「よお、梓零。俺と同じ班でいいよな?」
「梓零くん、私の班一人席が空いてるから…一緒でいいよね?」
オファーが二カ国からきた
「…清水もか。」
「田中くんも、同じなのね。」
「いや、俺は行かないから…はずして考えてくれ。」
たぶん、行けないから
それに二人に迷惑かけたくないしな
案の定、同じ班のやつらから苦情が出ている
「おい、田中!なんでそんなやつ誘うんだよ!」
「ちょっと清水さん、なに考えてるの?」
他の班のやつらもひそひそと話しあっているものの、どこか安心しているようだった
俺という爆弾を抱えこまなくて済むんだから当然だろうな
「田中、清水、俺にかまうなって。」
「なに言ってるんだよ!」
「なに言ってるの!」
二人が揃って大声を出すから、みんな見てるじゃないか
そのせいでクラス中が静寂に包まれる
「どう変わったって緋禮は緋禮だろ?逆の立場でもこいつなら同じこと言うと思うぜ。」
「そうだよ。それに私こういうのきらいだしね。」
物好きなやつだな…でも、ありがとうな
「だけど…。」
「なに?まだなにか言うことある?」
「俺さ、学校やめるから。遠足行けないって。」
「は?なに言ってるんだよ。遠足行ってからやめろって。」
むちゃくちゃ言うなあ、田中よ
だけど…こんな時間が俺にはとんでもなく楽しくてうれしくて…
いつまでも続くことを願った
俺が歴史を書いてしまえばそれも可能だけど
誰かのシナリオ通りに動くというのはいい気分はしないだろうし
この歴史の行く末を…確かめなければ
青葉だけでも助けたい
「なにぼーっとしてるんだよ。」
「悪い、ちょっとな。」
その時、唐突にもこの歴史の最後を、見ることとなってしまった
辺りに不穏な空気が流れ出した
俺だけではなく人間にも感じ取れるぐらいの強大な…モノだ
「…この振動は…なんだ?」
さらに、突然暗くなった
この場を支配している気配を、俺は知っていた
アストの記憶をたどると、天界と地上を行き来する時に使う「門」の開く気配だ
誰が開けたのだろう?今更下界にくる理由…?
それはただ一つ、俺の抹殺のためだろう
たまらず空を見上げる
「…まさか!!」
空が黒くなるほどの天使が空を埋め尽くしている
そして神と、四大天使…
空が暗くなったことに違和感を覚えた他の生徒たちも空を見上げる
「なんだ?」
「おい!なんだあれ!」
口々に叫ぶ
ディベリウス…なにをしに来た!?
俺は空を睨む
そしてディベリウスは語りだした
「全人類の諸君、私はこの世界を創った神、ディベリウスである。」
「なあ、なにが起きたんだ…?」
田中が心配そうな顔で俺に聞いてくる
「大丈夫だ。安心しろ。」
俺は田中やクラスに聞こえるようにわざと声を大きくした
とりえあず神がなにをしに来たのか、それを確かめなければ
「私は失望した。なぜ犯罪者であるアストラディウスをかくまうのか分からないが…。」
俺が犯罪者だって?
また…地上からアストの居場所をなくすつもりなのか…?
「その罪は万死に値する。よって、この歴史を消去する。」
は?
歴史の消去…だと
つまり、この世界を滅ぼすと言うのか?
「ばかな…こんなことを、神が軽々しく行うなんて…。」
「全人類の諸君、恨むのなら…緋禮梓零という者を恨むがよい。」
クラス中に…学校中にざわめきが起こる
「どういうことだ!?」
「説明しろよ!緋禮!!」
俺は翼を広げ外に出ようとする
ここまでするとは…見損なったぞ…!
「待てよ、緋禮!どうする気だ!?」
田中が慌てて俺を止める
「お前達を…守るんだ。」
そう、俺には責任がある
アストの力を奪ったのは事実
それを償うためにも、アストの守ろうとしたもの…
この世界を、歴史を守ってみせる!
「…今まで、ありがとう。」
俺はそう言い残して空へと舞い上がる
「出てきたか、裏切り者よ。」
「ディベリウス…お前だけは許さない…!」
俺はディベリウスを睨む
なるべく他の天使達、とりわけ四大天使とは戦いたくないけど…
また俺の中の感情が膨れあがる
みんなを守るために俺は戦う
そうやって全てを正当化して…俺は戦っていくのか
…冷静になれ、緋禮梓零
俺の敵はあくまでディベリウスただ一人
残りの天使には…手を出さないと決めるんだ!!
「ごめんね、アスト。こうしろって、私が言ったんだよ〜。」
するとアスラシャムが話しかけてくる
「だってね、あなたが死ねばアストが蘇るって聞いたから…つい。」
「それだけのために…人類を殺そうと言うのか!?」
ばかげてる…こんなこと許されるわけがない
ただそれだけのことで、何十億の人間を殺そうとするなんて
「だってさ…人間なんて作り直せばいくらでも増やせるわけだし。別に気にすることないよ♪。」
しかも笑いながら…淡々と語る
「…だったら、お前達も一度作り直されてみるか…!?」
俺の怒りも限界だった
生きている人達をなんだと思っているんだ!?
必死に毎日笑って、怒って、泣いて、喜んで
お前達よりも遥かに短い時間を、必死に前に進む人達を…なんだと思っている?
「ふふーん、残念だけど、あなたが守りたいものって、こんなやつらなんだよね〜。」
すると全世界からの…声が聞こえる
あらゆる言語が混ざってはいるが、俺はアストの記憶のおかげでなんなく聞き取れた
"死んでしまえ!"
"この、悪魔め!"
"おまえのせいで…!"
天使達の地上侵略は世界各地で行われているらしい…
理由は、俺の裏切りというわけか
なぜ一瞬で消さないのか
なぜ痛めつけ、苦しみを味あわせる?
少しだが理由が俺には分かった
アストもそうなのだが、天使達は"痛み"を知らないのだ
常に万物の頂点に立ち、自分の思い通りに押しつけることのできる存在
故に他の存在の痛みを知ることができないのか
狩られる立場というものを、知らないのだ
やはり戦うしかないのか?
痛みなど自分で体験せねば理解できない領域
それを諭すことなど俺にはできない
それに聞こえてくる声…
全てが俺への非難ばかりだ
どうして誰も信じてくれない?
なぜ目の前のものしか見ることができない?
所詮は自分を中心としか考えることのできない生き物ということか?
俺はどうすればいい…
消滅してアストに体を明け渡すか?
俺という障害物が消えれば完全に人類は消されるだろう
天使に対抗するなど人間には不可能だ
ならば人類のために天使を倒すのか?
その後俺はどうなる
迫害を受け、どこかに監禁されるのがオチだ
「なにを悩んでいるの?あなたが消えれば丸く収まるのよ?」
「そうや。うちらはアストを取り戻したいだけなんやから。」
ミスティとワドラが俺に進言する
神はうなずくばかり
「そうすれば破壊したものを元に戻し、以降人類には手を出さないと約束しよう。」
「悪い提案じゃないでしょ?ね、アスト。」
確かにそれが一番かもしれない
「本当か…その話は。」
俺ももう疲れた…
いろんなことがいっぺんに起き過ぎている
もう…眠ってもいいよな?青葉…
そうすれば同じ場所に行けるのなら
この案を受け入れてもいい…
しかしその時今まで沈黙していたシルバリウスがアスラシャムに駆け寄り…
ドシュッ!!
剣をつきたてた…!?
とっさの出来事であったことと、完全に不意をつかれたこともあり、誰も動けない
「…なにを?」
「アスト様!騙されては…いけません!!」
すると、アスラシャムに異変が起きる
「くぅ…ああ、う…。」
「なにをする、シルバ!!」
ミスティ達が駆け寄るが、シルバリウスの守護結界は硬く、それを許さない
そのうちにアスラシャムが話しだした
「梓零くん、私よ…青葉だよ。」
「嘘だ。青葉は死んだはず…。」
そう、あの時ワドラに…
…そうか?本当に?
「私は封印されているだけ、だからアスラシャムさんが考えていること全部分かるの!」
青葉が続ける
「みんなアストさんをほしいだけ!梓零くんが死んだら地球を壊すつもりなの!だから…」
そこまで言った時、アスラシャムの腕がシルバリウスへと伸びる
それはシルバの体を貫通する
「裏切り者には、死を〜♪」
シルバの呪法から逃れたアスラシャムが再び体を青葉から奪う
「あーあ、ほんまやってられんわ。」
「シルバめ…全部ばれちゃったじゃないか。」
口々に話しだす大天使達
最初から俺を…殺すつもりだったのか
最初から人類を…滅ぼすつもりだったのか
俺はどちらにも行けない存在なのか…?
人にもなれず天使にもなれず…おまけに死ぬことさえ許されないのか?
「仕方が無い。やれ。」
ディベリウスがそう言い放つと天使達は一斉に俺に襲いかかる
俺は、斬った
ひたすらに、斬った
ただ一つのことだけを考えて…
"俺はどうすればいい?"
教えてくれ、アスト…
天使達に従えというならそれでいい
人類を守れというなら守ってやる
だから…俺に道を示してくれ
"これを使って、歴史を、人類を直してくれないか…"
不意にあの時、アストの意識と交差した時の記憶が蘇る
アストは歴史と人類を直せ、と願っていたんじゃないのか?
それは結局…人類と天使の消去を意味してしまう
歴史を自分の足で作らせるためには天使の存在は必要無い
しかし今の人類ではいつか行き止まりにぶつかってしまうだろう
だから両方消せというのか?

そして俺自信も消えて…それで終わりにするのか

それがアストの願いなら…

それでもいいと言うのなら…

それに甘えてもいいのなら…

俺は…全てを零に戻す
全てをやりなおすために
全てを忘れよう
俺は力を開放する
すでに天使の範疇をも超えた八枚の翼
襲いかかる天使達を次々に斬っていく
徐々に大天使達から余裕の表情が消えて行った
すでに10万を超える天使は斬っただろうか?
恐ろしいほどの数の天使はいつのまにか数えるほどになっていた
1のものが100のものに勝つためには集団で襲うことだろう
しかし実際その理論は同じ程度の力の者同士の上で成り立つもの
100という力の人間に対して1の虫が束になったところで勝ち目は無い
だから俺を止めることのできる存在など…この世にはいない
それに気付いたのか、天使達は攻撃を止めた
「どうした?もう終わりか?」
信じられないという顔で見つめてくる神と三人の大天使
すると三人は戦闘体制をとる
「仕方がない、いくよ!」
ミスティが七支刀を抜く
それに応えて二人も武器を手にとる
「ふん、天使が人間の武器を使うなんて…お笑いだよな。」
神にもなれる存在が、自分以下の叡智を使用するなんて…
そういう俺もそのうちの一人だけどな
結局、個で活動する天使よりも、全で活動する人間の方が…上ってことか
確かに、楽しいかもしれないな
そんな人間が自分の足で歩くところを見るのは…
そして俺も真七支刀を抜く
「それは!?」
さすがに驚いたようだ
当然といえば当然だろう
自分が奪ったはずの剣が目の前にあるのだから
「この間ちょっとした時にもらったんでね。なんでも試作品は盗まれたらしいけど?」
「なっ…!」
ミスティの顔が紅潮する
「あっはははは…!」
それを見て思わず吹きだしてしまう
「な、なにがおかしい!」
「だってさ…お前が恥ずかしがって照れるところなんて、今まで見たこと無かったからさ、つい。」
「な、な…!?」
さらに真っ赤になるミスティ
ほんと、こういうところは変わってないな
って、俺はなにを考えている?
つい笑った、だって?
これから殺しあう相手に向って…"つい"だって?
憎まなければ…いけないのに?
やっぱりまだ俺は心を忘れることはできないのか
できるものならもう一度みんなで…
「なにをしている!いけ!!」
そう言おうとした時、ディベリウスが叫ぶ
その声で我にかえる
そして俺に襲いかかってくる三人
だが俺の悟りは全てを映し出していた
斬れる
今なら簡単に、斬れる、殺せる
だけど…俺はやっぱり友達を斬ることなんてできない
代わりに腕を斬った
ミスティとワドラが下がる
「くっ!?」
「梓零はん、わざとはずして…!?」
「…俺の敵はディベリウスただ一人。それだけのことだ。」
「じゃあ、なんで私は斬らなかったの?」
アスラシャムが聞いてくる
本当は斬りたかった
これ以上、戦わないためにも
だけど俺には…青葉を傷つけられない
今更なにを言っているのか、ということは分かっている
けど…できない
「青葉に、もう苦痛を味あわせるのは嫌なんだ。」
「キミって、甘いんだね♪」
その隙をついてアスラシャムが背後に回る
次の瞬間
ブシャアア!!
「…え?」
「そんな…?」
「アスラシャム、あんた…!」
俺を除いて一同息を飲む
なぜならそこには、体を貫く一筋の剣
体の中心を見事に貫いている
「すまない、アスラシャム…。」
俺ではないオレが青葉の体に剣をつきたてる
「そして、すまない少年よ。」
「まさかアストはん、か…?」
ワドラの言う通り、これはアストだ
アストが俺の体を使い剣をふるったのだ
"なぜ…?死んだんじゃないのか?"
"元天使のこの魂は…簡単に死なせてくれなくてね。アスラシャムの気配を感じて、戻ってきた。"
そしてミスティの問いに一言だけつぶやく
「アスト!あんたなにをしているのかわかってんのか!?」
「私は責任を果たしに来た…それだけだよ。」
…責任だって?
「私を殺すことが、責任ってわけ?…アスト、どうしちゃったの?」
苦しそうに話すアスラシャム
アストの痛いほどに悲しい心が分かる
自分の最愛の人を斬ってしまったという…後悔もあった
しかしそれ以上にこの悲しみは俺達人間に向けられている
「アスラシャム、君も分かっているだろう?もうこの世界に私達のような亡霊は必要無いことを。」
すると、アストの空気がディベリウスの気配を打ち破る
アスラシャムの顔が、アストの記憶の中のものに変わっていく
「ディベリウス…思考をすりかえるとは、やってくれるな。」
"それで、ミスティやワドラもおかしかったのか…?"
"そうだ。二人とも君がこの剣で斬ったおかげで正気に戻っているみたいだが。"
どうやら真七支刀には思念を絶ちきる事もできるらしい
改めて人間の技術の高さを知った
「アスト…?アストなの…!?」
「ああ、そうだ。やっと会えたな…アスラシャム。」
アスラシャムは目に一杯の涙をためている
「アスラシャム、一緒に行こう。」
「うん。私はあなたとなら…どこにでも行ける。」
「これからは…ずっと一緒だ。」
「うん!うん!」
すると今度はディベリウスのほうを見る
「…我々古き神々は、もう去らなければならない。…あなたなら、もう…。」
それだけ言うとアストは消えようとする
"待ってくれ!俺は…どうしたらいい!?"
"これから先は君たちの時代だ。そう、君が、作るんだ。"
"…俺には世界を救うなんてことはできない!"
そう…一度でも憎しみを覚えてしまった俺に、救いの手をのべる資格なんてあるもんか…
"全てを救おうなど、無理な話しだよ。"
"…え?"
"同一としての全ならば話しは別だが…生き物というものは個としての全、だからな。"
"ここにきて禅問答はやめてくれないか?"
"それはうぬぼれというものだ。自分にできる精一杯のことをやれ。それで、道は開く。"
"だけど…。"
"生ある物、死んだとて全てを忘れることはないから、安心して…直すんだな。"
そう言うとアストの魂が、完全に蒸散する
「待て!まだ…行かないでくれ!」
その声はもうアストには届かなかった
するとアスラシャムが俺に言う
「えっと…一つだけお願いしていいかな…?」
「ああ、俺にできることなら。」
「この子…青葉さんに、ごめんなさいって言ってほしいな…。」
「ああ、分かった。ちゃんと伝えておくよ。」
だけど、青葉ならきっとこう言うに違いない
"ううん、私のほうこそごめんなさい"ってな
アスラシャムも分かっていて言ってるんだろう
心なしか笑ってる気がした
「じゃあ、アストと一緒に行くね。」
「待ってくれ…俺はどうすれば…」
「もう、答えは決まってる。そうでしょ?。」
私の半身が語ってるから、とアスラシャムが付け加える
俺の答え…か
アストの言うことは…実際よく理解できない
感覚という曖昧な表現でしか表せない
思考が一つ一つ違うものでできたこの世界
それらの全てを理解することは不可能だ
だから個々の幸せではなく、全体としての幸せを、ということなのだろうか
それは種族の壁を無くすことか?
それは全世界の平和なのだろうか?
これこそ俺のうぬぼれかもしれない
こんな自分達で解決できるような悩みは、幸せとは呼べない
今のままでいい
別に変える所なんて無いはずだ
確かに今の世界は不条理な部分もたくさんある
でもその中で、俺達はそれなりに楽しかった
これでいいんじゃないのか?
俺の中の"幸せ"という勝手な願望を押し付けることは必要無い
ただこの歴史には悲劇が多すぎた
それを…消去するだけでこの歴史は変われるはずだ
分かった、もう迷わない
俺の信じる道を…進んでみる
「ありがとう。」
「うん、またどこかで…会えるといいね。」
「ああ、そうだな…。」
そしてアスラシャムが消える
「ミスティ、ワドラ。青葉を頼む。」
一時的に持ち主のいなくなった青葉の体を渡す
そして、神に向き直る
「さあて、本番だな。」
全身の神経がぴりぴりする
俺が神の行動を予測できるのは、神にとっても同じこと
俺の力がどこまで通用するのか…
「貴様は、どこまで私の邪魔をする…?」
「俺達はここにいてはいけない、そのことはあんたもわかっているだろう?」
そう、この能力を持った者はもうここにいてはいけない
そうすればまた悲劇を繰り返してしまう
未来が見えてしまうが故に起こった悲劇
先が見えるということは…とても悲しい
可能性を…否定されてしまうのだから
だから俺は神に剣を向ける
そして神もまた剣を取り俺に向ってくる
これが本当に最後の瞬間
アストが、アスラシャムが残してくれた答え
「時読み」と「悟り」を消去し、歴史をやりなおす
俺は迷わない…
そしてまた新しい生命の誕生を見るんだ
新しい世界に青葉達が生きていけると考えれば消滅することは恐くない
むしろうれしいぐらいだ
それなのに、俺は甘いんだよな…
今更神という存在に期待するってのも…な
「お前…?」
「緋禮はん!?」
「アスト…なにを!?」
みんなが一斉に俺を見る
俺は避けもせず受けもせず、ただ神の剣を受けいれていた
「なあ神様よ…頼みがあるんだが…。」
「なにをしている、緋禮!!早く逃げろ!」
「そうや。今のディベリウスはんは普通やあらへん!話しあいなんてできるわけ…」
ミスティとワドラが叫ぶ
でも、俺の目には後悔の念を灯した神の瞳が映し出されている
「もう一度、みんなが幸せに暮らせる世界を作ってやってくれないか?」
別に俺がやってもよかったかもしれない
でも、誰かを犠牲にして得る幸せしか選べないのなら
その犠牲に俺が立候補する、ただそれだけの話しだ
「なぜ、よけなかった…なぜ、私を殺さなかった?」
「あの時、初めて人間を殺した時に気付いたんだ。」
人を斬ってもなんとも思わないようなバケモノに自分がなれてしまうことを
人を犠牲にすることで幸せを得ることを正当化してしまう自分が許せなかったことを
だから…俺は自ら消えようと思った
「それに、これなら…もうあんただって変なことは考えないだろう?」
俺は真七支刀で神の腕に線を引く
真七支刀が光を上げる
そして悟りだけを消去する
さすがにこれには神も動揺を隠せなかった
「先のことも分からずに、歴史を創れというのか!?」
「逆だろ?分からないから創るんだ。」
そう、先のことが分からないから、生物は前に進める
例えどんなに短い一生でも
先のことを考えて生きていることが楽しいんだ
それができないという苦悩
短い間だったけど、俺も感じていた
だけど…その未来は決して確定のものじゃない
歴史を書きかえることなく、俺があの時あの女の子を助けることができたように
映し出された未来に見を委ねてはいけない
自分から動けば、未来は変わる
それに…さっきアストと再び融合した時
垣間見たアストの心には、しっかりと神への信頼が刻まれていたから
だから、俺は…消えることにする
ディベリウスは俺から剣を引きぬいた
「それに、歴史を創れとは言わない。ただ見守ってほしいんだ。」
誰だって最初は誰かに守られて育つものだ
それに…この歴史を創ったのはまぎれもなく神なのだから
俺は青葉と会えて楽しかった
みんなと会えたのはこの歴史のおかげだから
きっと他にも幸せになれた人は大勢いるはずだから
こんなすばらしい歴史を消す必要は無い…それに
「今のあんたならきっといい歴史に導けると思うから…。」
俺は心からそう思う
もう…この世界に心配は要らない
きっといい世界になるはずだから
だから俺は連れていく
この歴史の悲劇を…
俺は翼を大きく広げ、太陽の光を受け大空へ舞い上がる
その姿はまさしく神そのものだった
それは、見るものを圧倒させた
俺は歴史を刻むために世界中の空をゆっくりと舞う
そして時読みを始めた
この地球そのものを消すのではなく
生物を消去するわけでもない
悲劇の基だけを取り去って行く
そして今そこにある歴史をもう一度やりなおすだけ
生物が生まれ、進化し、文明を作り、発展していく
そこで、青葉達が笑っていられる世界を…
どうか、みんながもう一度幸せな時をすごせる歴史を…
「あんたの力で創ってくれ…これが俺の最後のわがままだから…。」
そして歴史を再び完全に再生できるよう記憶し、巻き戻す
同じ人物を同じ場所に再び転生させるために
並大抵ではないこの作業を、俺は紡いでいく
だがもし、完全とも言えるその歴史に欠陥があるとすれば
俺という存在が消えることだけだろう
俺の力はこれで完全に消える
そうすればもう二度と再生することはない
ありがとう、時読みの力よ
ここまで、俺に力をくれたこと、忘れない…
そして、最後に…青葉に触れる
「青葉…ごめんな。日記のこと、守れそうにないみたいだから…。」
「待て、緋禮!あんたがいくなら私が変わりになる!だから…!」
ミスティが叫ぶ
だけど、もう誰も巻き込むつもりは無いから
新しい世界で…幸せな時を…
「ミスティ、ワドラ…今まで、ありがとう。」
そして歴史の巻き戻しが完全に終わる
ビデオの巻き戻しのように時代が逆行して行く
それと同時に俺は大気の光とともに世界と一つになる
その時それを目に写す青葉の姿が見えた
青葉がなにかを叫ぼうとするが、声に力がはいらない
先ほど受けた真七支刀の傷はそれほどに深かった
俺もまた、消えゆく中で口を動かす
声などなくても俺達には十分に分かりあえた


"また、会えるといいね"


"また、会おうな"


そこには二人分の笑顔が咲いていた
もう会うことは叶わなくても
お互いに笑いあった
力を失った魂はただ消えゆくのみ
だから俺は願う
青葉には幸せを…と



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