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Original Novel Yuki Presents



歴史の果てに


第13章

エピローグ



コト…
「ふう…。」
筆を置くと少し前にいれておいた紅茶を口に含む
ここのところ細かい修正が続いたためほとんど休んでいない
しかしそれも今日で最後だ
「…長かったな。」
「悟り」をなくした私に歴史の修正は容易なものではなかった
実際ここまで直せたのは奇跡に近いかもしれない
一度消滅した魂を復活させることは私にも至難の技であった
コンコン
「失礼します。」
そこに雫がはいってきた
「まだ時間はよいのか?」
確か人間界の学業の始業時間は朝早いはずだが…
「行く前に挨拶をしとうこうと思って。」
「ふむ?」
ディベリウス様が頑張ってくれたから、また会えるんだもん
嬉しくて嬉しくて…
「だから、ありがとうございます!」
「私の不甲斐なさが起こしてしまったことだから…当然の義務だよ。」
しかし…私にできるのはここまでだ
なんとか存在を保つことはできたが、中身は別人といっても過言ではない
魂という記憶媒体は…あの時に消えてしまったのだから
「すまないな。私がもっとしっかりしていれば…。」
「私は、嬉しいんですよ。」
「なぜだ?」
あれはもはや緋禮梓零ではない
ただ同じ形をしている別人だというのに
記憶、人格…全てが失われてしまっているのに
「失ってしまったものは、どれだけでも取り戻せるんですから。」
そう笑顔で答える
「そうか…そうだったな。」
例え何回歴史をやりなおしても
そこに存在していなければ何もすることはできない
私もあの時殺されていたら…
緋禮を復活させることはできなかった
これは矛盾というものだがな…
「あ、そろそろ行きますね。」
腕時計を見て私に言った
「ああ、気をつけてな。」
一礼して雫は部屋を出て行った
はたして…思いださせることができるのだろうか
今の彼は常人以下の力しか持っていない
魂が天使の力を失う際に人間としての力も奪ってしまったからだ
みんなには悪いが、こっそりと彼の行動を観察させてもらった
なぜなら自信が無かったからだ
ただ肉体を復活させただけで、みんなにぬか喜びをさせたくなかった
もし可能であれば私が力を注ぐつもりだったからだ
しかし結果は…失敗であった
魂には余分な力を受けいれる余裕はまったく無かった
その器の大きさは普通の人間の半分以下しかなかったからだ
「…私にも不可能ということがあるのか…。」
なんの力も無い私が…神とはな
ガチャッ
部屋から出て一息つく
「さてと…。」
ディベリウスさんにも挨拶は終わったし、準備もできたし…
美堂さん達も待ってるだろうし
「行こうかな、地上に。」
久しぶりの地上
なにより梓零くんに会えるのが…嬉しい
「無くしたものは…創りなおせるから…。」
私は、前の梓零くんをどうとか言うつもりはないの
もちろん…思いだしてくれるのが一番だけど
でも、今の梓零くんも梓零くんなんだから
ここから始めればいいんだよね
想い出に過去も未来もないよね…?
私とあなたが生きていた、共に笑いあえたという…
これから創っていける
それだけで嬉しいんだよ
だから…私は、会いに行くね


「すげーな、田中!」
「ほんとすごいよね〜。」
クラスに人だかりができている
友人の田中が先日Aランクの試験に合格した
知り合いからランカーがでるのは喜ばしいことだ
「ちなみに、Aランク以上の持ち主はランカーと呼ばれるのだ。」
「…田中。それは俺の役目だ。」
そう、注釈を読み手に伝えるという…
「たまには俺にもさせてくれよ。」
「まあいいけどさ。」
楽できるからな
がしがし注釈をつけてくれ
「緋禮もさ、そろそろ試験受ければ?」
「俺は実力ないから。無理だって。」
「でもさ、お前だけだぞ。まだCランクなの。」
そう、俺は基準のBランクに達していない
当然だ
俺には…みんなが持っているような能力は無いからな
キーンコーンカーンコーン…
「おっと、熊田が来るな…。」
「じゃあな、また後で。」
そう言って田中は自分の席に座る
「ふう…。」
能力、か…
確かに俺にはみんなみたいな力は無いよな
人並みの力がほしかったよな…
ま、贅沢な悩みだな…ほんとに
ガラッ
そのとき熊田が教室に入ってくる
「よし、授業始めるぞ。」
始業式の日から授業を始める学校も珍しいな…まったく
んじゃ、おやすみ…
「と言ってる間に放課後かよ。」
いつのまにか気付いた時にはHR前だった
「よーし、それじゃHR始めるぞー。」
「先生ー!電車に間に合うように終わってよー!」
熊田は別名「電車通い殺し」と呼ばれている
いつもはかったかのようなタイミングでHRを終わる
あと一分でも早く終われば電車に間に合うというのに…
熊田の担当クラスになったが最後、諦めるしかないのだ
というかわざとやってるんだろうな、たぶん
「今日はみんなにいい知らせがあるぞ。」
ざわっ…
クラス中がどよめく
ちなみに熊田の「いい知らせ」は経験上よかったためしは無い
その全てが肉体労働だったからだ
(…今度はプール掃除でもするんじゃないだろうな…?)
(…ありえるな。)
小声で田中に話しかける
なんでいつもわざわざ損な役まわりを引きうけるかね…この担任は
「安心しろ…。今日から転校生が来ることになっている。」
おおーー!
一気に活気づく
…なにが安心なのかは分からないが
でも、こんな時期に転校なんて…大変だな
「それじゃどうぞ、青葉さん。」
ガラッ
一人の女の子が入ってくる
「青葉 雫です。みなさんよろしくお願いします。」
ぺこっとお辞儀する
「青葉さんは家庭の事情で転校されてきた。みんな、なかよくな。」
…ここは小学校か
とはいえ、男子生徒は一様に騒ぎたっていて誰も熊田の話しを聞いていなかった
(おい!かわいいぞ!?)
田中が話しかけてくる
(…ああ、そうだな。)
(…いまいち煮えきらない答えだな…。)
「それじゃ、青葉さんの席は…っと。」
そう言うと熊田は空席を探し始めた
空いてる席って、俺の隣しかないじゃん
…お約束すぎる
「それじゃ、この列の一番後ろに座ってくれるかな?」
「はい。」
そして俺の右隣の席に座る
「はじめまして、青葉 雫です。」
「緋禮 梓零です。」
お約束な挨拶を交わすと青葉は席に着いた
「さて、それじゃHR始めるぞ〜。」
「今までのはなんだったんだよ〜〜。」
「先生、電車に間に合わなくなるよーー!」
ブーイングの嵐
が、一向に気にせず黙々とHRを進める熊田
おそるべし…
だけど、俺にはそんなことどうでもよかった
だって、俺の横には…

…少しずつではあるが、溶けはじめる氷のように…

「ん?俺の顔に何かついてる?」
「あ、いえ…そんなことないですよ。」

…時は、必ず動き出す…

「やっぱり、なにかついてる?」
「あ、ごめんなさい…。ちょっと、考え事してて…。」

…いつまでも、色あせる事のない想い出は…

「あのさ…俺って、どっかで青葉さんに会った事ない?」
「え?…そうですか?」

…人の心から失われることはないのだから…

「いや、どっかで会ってる。うん、間違いないよ。」
「でも…私は覚えてないんですけど…?」

…ここから創りなおせるよ、きっと…

「うわ、まじで…?」
「はい、ごめんなさい…。」
「そうだな…確か、40億年ぐらい前だったと思うけど?」
「…!」
俺は全部覚えてる
あの時の出来事全てを
もっとも、この記憶を残すために力を失ってしまったけれど
俺は…全部覚えてる
約束だったからな
忘れるわけには…いかないだろう?
「また会えたな、青葉…。」
青葉はもう、夢中でうなずいていた
「…梓零くん!」
「青葉…俺、もう離さないからな…!」
「私も、もう離れない…離れたくないよぉ…。」
「これからは…ずっと一緒だ。」
「…うん、ずっと…一緒だよ!」


fin…



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