Back/Index/Next
Original Novel Yuki Presents



終わらない夏




After Story



2003/8/10(日)


「今日も忙しいよなぁ。」
ひっきりなしに来るお客の毎日で俺は倒れる寸前である…
たぶん一人なら本当に倒れていただろう
でも、この状況なら倒れるようなことは絶対ないだろうけど
「夏樹ー、これ早く配達してよー。」
奥の部屋から俺を呼ぶ声が聞こえた
おそらく光先生と皐月の合作である今日の調剤が一段落したのだろう
俺はというと、無事に大学を卒業して真面目に働いているというわけだ
実はというとあのつぶれそうだった薬局の2号店の店長をしているのだが…
あのあと、本店の近くに国立病院の内科が独立し、薬局の近くに開業
一気に客が増えたというわけで、こんな状況です
「まさかあの薬局がここまで大きくなるとはね…。」
「ほら夏樹クン!!さっさと配達してよ!」
「はいはい、行ってきますよー。」
去年一年間、大学卒業後バイトで過ごしていた先輩も、この支店開業に伴い正社員となりました
あの騒がしい日々は未だ鳴りやまず、というところだったりする
一時期就職活動(本気かどうかは知らないが)のために先輩が店から消えた時があった
あの時は…なんというか静かだった
いるとうるさいけど…いないと寂しいかったのを覚えている
とはいえ毎日このテンションは疲れるけどね
「んじゃ行ってくるよー。」
「あ、夏樹くん、これもついでに配達お願い〜〜。」
「をを、遠いじゃん…間に合うかな…。」
電話でお客とやりとりしていた良子ちゃんが慌てて走ってくると思うと、
どうやら急遽配達を頼まれたらしいが、微妙に遠いじゃん…
っと、良子ちゃんは卒業まではバイトとして残ってくれるということで、
家にも近くなる支店の方に移動となり、働いてくれている
…ま、結局は“何も変わっていない”ということだったりもするんだけど
そして、この2号店は主に処方箋の調剤を担当している
そのため配達など、お年寄りに届けることが多いのだ
その代わりに病院が閉まる時間は閉店となる
朝は早いけど、その分終わるのも早いので慣れると楽だったりする
「ねえ夏樹、今日はこれでおしまいだから、頑張れ〜。」
「おっけー。じゃあ…終わったらどっか行こうか?」
「うん!…そうだな〜、海に行きたいなー。」
こんな、変わらない毎日を、楽しい毎日をくれる
それはそこに皐月の笑顔があるからだろう
皐月はもう忘れてしまうことはなくなった
ただし、昔のことはもう覚えていない
だけど、またこうして笑いあえた日々を見ていると、俺は思う
俺の考えは正しかったんだ、って思う
“失くしてしまったものでも、きっとまた作っていける”ってこと
ここにある笑顔を見るたび、そう思ってしまう
…とはいえ、もう二度と失うのは嫌だけど
もうそんなことはないと思うから、俺はここから歩き出せる
皐月と一緒に、未来に向かって歩き出せる気がした
もう過去に向きあって、繰り返すことはないと…
「なんでかしらないけど、わけわからんことを時々考えるんだよな…。」
などということを考えながら一軒目の家に到着
「ええと…櫛田、詩玲さんと…。」
珍しいな、皐月と同じ苗字なんて…親戚だったりしてな
「こんにちはー、黒崎薬局ですー。」
インターホンを押し、しばらく待つと
「はいはい、どうもありがとうね。」
本人と思われる男の人が現れた
「遅くなってすいませんでした、こちらが今回の処方箋ですね。
 この袋に入ったのが食後で、この錠剤が…」
俺は簡単に薬の説明をすると代金をいただいた
「それでは、お大事にしてくださいね。」
「ああ、ありがとうね。」
そして俺は次の家へと進路を向ける
とまあこんな感じの、充実した毎日を送っている
それもきっと、皐月が横にいてくれるおかげだろう
何度も、何度も皐月の心を傷つけてしまったかもしれないけど…
「ま、考えすぎだよね?」
「うん?」
今日の仕事も終わり、俺達は家に戻っていた
ちょっと俺の帰りが遅くなってしまったため海は延期した
ちなみに皐月はあの後家を出て、俺と一緒に住んでいた
世間体的にあまりよろしいことではないかもしれないし、
ただ幸せでありたい、ということは理由にならないとは思う
だけど俺はもう、皐月と離れたくなかった
こうなったことで皐月には迷惑をかけているのかもしれない
だけど俺が…できる限り守ってやる
そう決めたから、俺も少しは成長できたんだと思う
「いやね、なんていうか…皐月との思い出がリフレインしてさ。」
「うん…私も、たぶんおんなじこと、思ってたよ…。」
そう言って笑いあえるような毎日
今まで離れていた分の幸せを、かみしめる毎日
幾度となく経験してきたような長く繰り返した夏も、もう終わったんだ
これからはいろんな季節がやってくる
そんな気がした
「ねえ夏樹。変なこと言うかもしれないけど…いいかな?」
そんな時、皐月がそうつぶやいた
「私ね、考えてたの。夏樹と会って、忘れて、また会って…。
 この繰り返しをどれだけしたのかな、って。私自身はもうまったく覚えていないんだけど…。
 そんなしっくりしない、感覚だけが残っているの。なんだか、ほんとに同じ夏を…、
 同じ時間を、私だけがぐるぐると回っているような感覚なの…。」
それは、すごく怖いことだと皐月は言う
今のこの時間も、またすぐに壊れてしまうんじゃないだろうか
そしてまた出会いと別れの繰り返しの時間を歩くんじゃないだろうか、と
だけど、俺には…
「そんなことはないさ。これからは…ずっと一緒だ。」
確信を持ってそう言える
証明できるものは何もない
だけど、なぜか断言できてしまう
絶対にもう、繰り返すことはないと…
「この時間は…神様がくれた奇跡だと思うから。俺達はずっと…一緒だよ。」
そんな風に断言する俺を、少し驚いた顔で見ていた皐月だったが
「…うん、そうだね…。ずっと、一緒…だよ。」
俺たちの時間はもう…止まることも巻き戻ることもない
これから先の季節はきっと、俺たちが作っていく
どこまでも、どこまでも続く…新しい、季節を



Back/Top/Next